茜差す丘で、レオニーが眠りから目覚めた後…-。
彼のおどおどした態度が少し気になるものの、私達はシンヴァの街へ向かうことになった。
街は夕暮れ時のせいか、仕事や学校帰りの人々で賑わっていた。
レオニー「……ん?」
その時、レオニーが目をつむり、鼻をひくつかせた。
〇〇「この甘い香りは……?」
見れば街角に軒を連ねる屋台の中に、おいしそうなクレープ屋がある。
レオニー「…………」
横を振り向けば、レオニーの目はクレープの屋台に釘づけだった。
(お腹が減ってるのかな?)
〇〇「買ってくる?」
レオニー「はあ!? あ、甘いモンなんか、ぜんっぜん好きじゃねえ! オレは、泣く子も黙る…-」
と、目覚めた時と同じ口上を述べようとしたところに…-。
街の人々1「おお、レオニー様だ! レオニー様がお戻りになられた!」
街の人々2「まあ、なんて喜ばしい!」
レオニー「んなっ!?」
レオニーの姿に気づいた街の人々が、あっという間に集まってきた。
しかし、レオニーは目を丸くすると、慌てて私の背に身を隠し、ブラウスの裾を掴む。
レオニー「……っ……!」
目を逸らし口をもごもごと動かすレオニーに……
〇〇「よかったね。皆、レオニーの帰りを待ってたみたい」
街の人々2「ええ、本当によかったです! ねえ、レオニー様」
街の人々1「ずっとお留守だったから、本当に心配してたんですよ」
レオニー「……っそ、そうか……。 よ、ようし……皆、心配かけたな。 オレが戻ってきたからには、もう大丈夫だ! ……多分」
少し頼りない語尾に、集まっていた人々が笑う。
〇〇「レオニーは、皆に慕われているんだね」
街の人々2「ええ、こういうところがレオニー様はかわいらしいですから」
レオニー「う、うるせえっ! かわいいとか言うな!」
噛みつくレオニーを見て、街の人々はみな微笑ましそうに頬を緩める。
しかし、そんな温かな輪のなかで…-。
レオニー「……くそう……勇気さえあれば……」
レオニーがつぶやいた声が、私だけに小さく届いたのだった…-。