街の皆にもらった卵からヒヨコ達が大量に羽化した数日後…-。
そろそろ昼時に差しかかろうとしている頃だった。
扉がノックされて、〇〇が部屋へ入ってくる。
〇〇「レオニー、ヒヨコ達の餌を持って来たよ」
レオニー「〇〇! 悪い、ちょっと待ってオレも運ぶ」
〇〇の持っていたトレーの上にある皿をいくつか受け取って、ヒヨコ達がうるさい駆け回る部屋の床に置く。
ヒヨコ「ぴぴー! ぴー!」
すると騒ぎ出したチビ共に混じって、オレの肩に乗っていたコイツが鳴いた。
あの感謝祭の後…-。
せめてコイツにだけでも名前をつけようと二人で決めて、〇〇が名付け親になって『ピヨニー』という名前がついた。
(なんかオレの名前に似てるせいで、愛着は湧くんだけどな……)
レオニー「わかったわかった、オマエの分もあるから落ち着けって」
〇〇「うん、大丈夫だよ。ほら」
オレの足元に〇〇が他のものより少しだけ大きな皿を置く。
するとピヨニーは床に飛び降りて……
ピヨニー「ぴぴ~! ぴっ、ぴぴっぴー!」
明らかにオレの肩にいた時より嬉しそうに鳴いて、〇〇の足元にまとわりつく。
〇〇「っ、ピヨニー、どうしたの? ご飯が嬉しいの?」
ピヨニー「ぴぴぴー!」
〇〇「見て見てレオニー。本当にピヨニーって食いしん坊だね」
レオニー「いや、それ違うと思う……」
無邪気な顔をする〇〇に向かって、呆れながら言う。
(オレの勘が言ってる……)
(ピヨニーは多分、〇〇のことが好きだ!)
まさかのライバル出現に、ここ最近オレの胃は痛みつつある。
何せ……
ピヨニー「ぴぴっ! ぴぴぴっ!」
〇〇「ちょっ、駄目っ、そんなとこ登ったらくすぐったいから……っ」
レオニー「こらこらこらーーーー!!!」
〇〇の肩に上り、耳元にかわいらしく突く様子に、慌ててオレはピヨニーを手ですくって床に放した。
〇〇「どうしたの? レオニー。そんな大きな声出して」
レオニー「どうしたもこうしたもない! コイツにばっか甘くしたら駄目だ」
(だってこのままじゃ……)
(オレ、よりによってヒヨコに〇〇を奪われるのか!?)
数日前から浮かんでいる懸念が現実になりそうで痛み始めた胃を押さえる。
けれど、〇〇は不思議そうに首を傾げた。
〇〇「どうして? 前はレオニーもあんなにかわいがっていたのに……」
レオニー「……」
寂しそうな顔をして〇〇が目を伏せる。
その表情に小心者のオレの心臓はきゅっと小さくなった。
(〇〇に悲しい顔をさせた……!?)
レオニー「ち、違うんだ! これは……その、本当にピヨニーのことを思って!」
慌ててオレは手を大きく振りながら弁明を開始する。
〇〇「だって、皆が一緒に大きくなるまで育てようって言ったのはレオニーなのに……。 お兄さんだからって一匹だけに辛くあたるのは……」
レオニー「だからそうじゃないんだって」
〇〇「え!?」
その瞬間、薄い肩を掴んで、オレは正面から〇〇を見つめた。
驚いた丸い瞳と視線があって、心臓が鼓動を大きくし始める。
〇〇「何? どういう意味なの……?」
レオニー「だから、それは……」
伝えたい言葉がなかなか口を出て来ない。
(こういう時に勇気を出さなくてどうするんだよ……!?)
オレは一度固く目をつむると、再びまぶたを開いた瞬間…-。
レオニー「ピ、ピヨニーだけじゃなくて、おおオレのことも構ってほしい!!」
〇〇「……っ」
(……言えた!!)
心の中でガッツポーズをとるオレの前で、〇〇の頬が徐々に赤くなっていく。
〇〇「ええと……それってつまり……」
言葉にしかねて口元に手をやる〇〇にオレは……
レオニー「そうだよ。こんなこと言ったら小さいヤツって思われるかもしれないけど……。 せっかく約束通りアンタがヒヨコ達が大きくなるまで一緒にいてくれるのに……。 最近の〇〇、ピヨニー達につきっきりだから……」
〇〇「レオニー……そんなこと考えてたの!?」
よほど意外だったのか、口をぽかんと開けた〇〇は、次の瞬間、声を上げて笑い出した。
レオニー「わ、笑うなよ……せっかく勇気出して言ったのにっ!」
〇〇「うん、ごめんね。でも意外だったからびっくりして……。 でも心配しなくて大丈夫だよ。ちゃんとヒヨコ達よりレオニーの方が大切だから……」
レオニー「〇〇……」
その言葉に嬉しさが溢れてきて、ついそのまま見つめてしまった。
視線がゆっくり絡み合って、そのまま唇が吸い寄せられて……
(キス……したいな……)
けれど、どの時…-。
ピヨニー「ぴぴーっっ!」
レオニー「んむ!?」
〇〇「……っ!」
オレと〇〇の唇の間にピヨニーが飛び込んできた。
レオニー「お、オマエ……このっ、大切なところで邪魔するなーっ!」
オレの叫び声に交じって……
〇〇のかわいらしい笑い声とピヨニーの鳴き声が部屋に響くのだった…-。
おわり。