今にも飛びかかってきそうな野犬に襲われそうになった時だった。
レオニー「〇〇!!」
〇〇「レオニー!? ……助けて!」
戻ってきたレオニーに名前を呼ばれた瞬間、私は叫んでいた…-。
レオニー「……っ!」
その声を聞いた野犬がレオニーの存在に気づいて彼を睨む。
低く唸る野犬の口元から凶暴な歯が覗いた。
レオニー「……っ、……――!」
レオニーの足はがくがくと震えていて、顔も蒼白になっている。
(レオニー……)
レオニー「……」
レオニーと野犬の無言の睨み合いが続く中、その空気を破るように、ひときわ大きな声で野犬が吠えた。
〇〇「!!」
その大きな声に、私は胸の前で守るようにヒヨコを手に包んだ。
(怖い……!)
その時、レオニーから低い声が漏れた。
レオニー「……たいに、……さない……」
〇〇「え…?」
(今、なんて……?)
顔を上げれば彼の目に強く鋭い力が宿っていた。
拳をきつく握りしめたレオニーが猛然と駆け、私達を守るように野犬の前に立ち塞がる。
レオニー「〇〇とヒヨコに手を出してみろ! オレは絶対にオマエを許さないっ!!!」
(レオニー……)
気迫のこもった声に空気が震えたその瞬間…-。
野犬?「……プスッ」
レオニー「……え?」
変な音が聞こえたかと思うと、野犬から煙が出始め、やがてピタリと動きを止めた。
(何……?)
状況が理解できず、ただ呆気に取られていると……
??「ああ、すみません!!」
向こうから、警備兵のような格好をした人が慌てふためきながら駆け寄ってきた。
警備兵「レ、レオニー様……! 大変申し訳ありません!」
まだ緊張を解いていないレオニーの表情を見て、その人は顔を青ざめさせた。
〇〇「あの、いったいこれは……?」
警備兵「この日のためにリーヤ様に作っていただいた警備ロボットなのですが……。 故障して、どこかに行ってしまいまして……まさかレオニー様にご迷惑を……!」
レオニー「ロボット……故障……」
レオニーの体から、力が抜けていくことがわかる。
警備兵「本当に申し訳ありませんでした。なんなりと処罰を……」
レオニー「いや、もういいから……そいつ、持ってって」
警備兵「はっ……」
警備兵の方は故障した犬型ロボットを引きずりながら、その場を立ち去っていった。
(助かった……?)
ヒヨコ「ぴよ……?」
いつの間にか震えていた手の中で、ヒヨコが小さな声を上げる。
レオニー「〇〇!! 大丈夫か!?」
〇〇「え……」
次の瞬間、私の体はレオニーの腕により抱きしめられていた。
〇〇「レオニー? 大丈夫……うん、私は大丈夫だよ……」
まだ上手く思考がまとまらないまま、ただ彼の腕の中で自分の体が震えていることを自覚する。
ぎゅっと彼に抱きしめられると、震えはやがておさまっていって……
(助かったんだ……)
〇〇「レオニー……」
レオニー「無事で……よかったっ!!」
〇〇「!!」
叫ぶような必死な声が耳元で聞こえて、さらに強く私の体が抱きしめられる。
レオニー「オレ……オレ! もし〇〇とヒヨコに何かあったらと思ったら……! もう恐怖も自分の弱さも全部忘れてて、必死だったんだ!!」
〇〇「そう……だったの……?」
腕の中で顔を上げ、彼の顔をよく確かめる。
レオニー「……っ」
(レオニー、震えてる)
(やっぱり、怖かったんだ……)
〇〇「助けてくれてありがとう……本当に私、びっくりした。 さっきのレオニー、すごく格好よくて……勇敢だった」
レオニー「勇敢……オレが?」
〇〇「うん……」
レオニー「……そうだったんだ……必死だからわかんなかった……。 そうか、勇気って何かを守るためなら勝手に湧き出てくるものだったんだ……」
〇〇「……っ」
再びレオニーの腕に強く抱きしめられる。
その手は私の知る誰よりも、強くて勇ましい腕だった…-。
レオニーの腕にしばらく抱きしめられていると……
ヒヨコ「ぴー、ぴぴーーっ!」
〇〇「!」
レオニー「……っ! オマエ、〇〇の手の中にいたのか!?」
何かを訴えるような声が聞こえて、私達は慌てて離れた。
よく見ればヒヨコが苦しげに身震いしている。
〇〇「もしかして苦しかったのかな?」
レオニー「……悪かった!! 全然気づかなかった」
ヒヨコ「ぴぴぴ! ぴぴー! ぴー!」
ようやく手の中から解放されたヒヨコが、元気に鳴いて毛繕いを始める。
(あなたが、レオニーに勇気をくれたのかな?)
心の中でそう問いかけながら見つめると、ヒヨコが得意気に胸を張った気がした。
そのかわいらしい様子を見て、私達は二人で笑い合ったのだった…-。
おわり。