月の見える夜にレオニーが私に語り聞かせてくれた言葉…-。
レオニー「けど、そんなオレでもこうしてオズワルドを手伝うことで皆を笑顔にできるなら……」
彼の心に触れて胸が温かくなるのを感じる……
けれど彼は再び動かし始めた筆を止めてうつむいた。
レオニー「……なんかオレ今、柄にもないこと言ってた気がする」
見ると、暗い夜空の下でも彼の顔が真っ赤になっているのがわかる。
○○「そんなことないよ」
レオニー「そ、そうか?けど……なんか恥ずかしくなってきた……ん?」
いきなり弾かれたように顔を上げたレオニーは辺りに視線を移した。
レオニー「なんか今、音がしなかったか?」
○○「え?」
(音なんかしたかな?)
言われてその場で耳を澄ませてみるけれど、やっぱり何も聞こえない。
○○「私は何も聞こえなかったけど……」
レオニー「そうか?でもなんかコンコンってちっちゃな音が……」
首を傾げたレオニーが、その時再び何かを感じて目を見開く。
レオニー「ほらまた!!」
○○「え、本当?」
二度目の彼の言葉に私は目を閉じて辺りの音に神経を集中させた。
すると確かに何かを小突くような音が聞こえてくる。
○○「!今のって……」
レオニー「!?オレの手の中から聞こえてる……?」
○○「え!?」
その言葉にレオニーの手の中の彩色途中の卵を見た時だった。
殻の一部にヒビが入ったかと思うと…-。
ヒヨコ「……ぴよ?」
レオニー「うわあああぁぁぁっ!?」
突然、手の中の卵からヒヨコが顔を出して驚きのあまりレオニーが仰け反った。
○○「大丈夫!レオニー落ち着いて!」
レオニー「!!」
私の声を聞いて、レオニーは手の中から滑り落ちそうになった卵を抱え直す。
そんなレオニーと生まれたばかりのヒヨコの目が合った。
ヒヨコ「ぴー!ぴぴー、ぴよぴよっ!」
レオニー「うわ!なんだコイツ、オレ見てめちゃくちゃ喜んでるぞ!? ええと、オレはどうしたら……いや、それよりなんで機械仕掛けの卵から!? このヒヨコも機械仕掛けなのか?」
すっかり混乱した様子のレオニーが、ヒヨコを卵ごと地面に置くとヒヨコは小さく鳴きながら、まだおぼつかない足取りでレオニーに歩み寄っていく。
(もしかしてこれって……)
○○「レオニーのこと、お母さんだと思ってる?」
レオニー「ええぇーっ!」
二人で目を見合わせてからヒヨコを見るとヒヨコはレオニーの足元に顔を擦りよせて寒そうに身を震わせた。
レオニー「……ど、どうしたらいいんだ!?夜だし寒いのか? ええと……」
慌てて周りを見るけれど、この場にあるのは卵の彩色でよごれたボロ布ばかり。
レオニー「仕方ないな……オマエ。オレのココに入るか?」
ヒヨコ「ぴぴぃ……」
レオニーはヒヨコを手ですくって、そっと自分の懐に入れる。
するとしばらくして、ヒヨコは安心したのか、うとうと眠り始めた。
○○「……大丈夫?」
レオニー「う、うん……落ち着いたみたいだ。 けど、どうしたらいいんだ……?」
大切そうに懐にヒヨコを抱えたレオニーが、戸惑いながら私に視線を送る。
(これって……つまりそういうことだよね……)
○○「多分レオニーがお母さんだから……」
レオニー「つまりオレが育てるのか?コイツを?」
再び私達は互いの顔を見合わせる。
レオニー「えええええ!?」
その視線の間で、ヒヨコは気持ちよさそうに寝息を立ているのだった。