そしてついにやってきた、感謝祭当日…―。
パレードは、光線銃の光がよく映えるようにと、日が落ちてから行われることとなった。
(いよいよだ……)
人々の賑わいと山車の華やかさで、夜の街がいっそう明るく感じられる。
オズワルド「もう夜だっていうのに、熱気があるねぇ」
〇〇「皆、オズワルドさんのパレードを楽しみにしてるんですよ」
オズワルド「おや、そんなに褒めてくれちゃって……何が欲しいんだい?」
〇〇「そ、そんなつもりじゃ……!」
愉しむように瞳を覗き込まれ、一瞬で鼓動が跳ね上がったかと思うと……
オズワルド「なんだってあげるさ、今夜はね」
ぽんと、私の頭に手が乗せられる。
オズワルド「なんせ、年に一度の感謝祭。新しい季節の訪れを祝い、未来に思いを馳せる祭り。つまり今夜は、ありとあらゆる始まりが、訪れるのさ!」
眼鏡の奥の瞳が、夜の明かりに照らされて幻想的に煌く。
その美しさに、思わず見とれてしまっていると……
オズワルド「くくっ……じゃあまずは、街の皆へお楽しみをね!」
〇〇「っ……!」
以前と同じように体をぐっと抱き上げられ、山車の上へ乗せられた瞬間…―。
〇〇「わぁ……」
パレードの始まりを告げるファンファーレが、大きく夜空に鳴り響いた。
始まったパレードの煌びやかさ、盛大さに言葉を失いそうになる。
〇〇「素敵……」
オズワルド「言ったとおりだったろ?」
〇〇「え……」
オズワルド「トロイメアのお姫様がゲストだなんて、盛大なパレ―ドになるよ!だから、特等席は君のもの」
(オズワルドさんの、言った通り……)
そっと見上げれば、オズワルドさんも満足そうに微笑んでいて……
オズワルド「さて、これからが本番。皆で力を合わせて、卵を撃ち抜いちゃってねぇ!」
オズワルドさんが、山車に設置されたレバーを勢いよく引いた途端……筒から次々と、色とりどりの卵が発射され始めた。
子ども1「きゃーっ!あはははっ!」
子ども2「それ、やっつけろー!」
大人1「こりゃ面白いぞ!」
街の人々が光線銃を手に、次々と卵を撃っていく。
やがて、発射された光線が幾重にも交差し……美しい色を重ね始めた。
それはまるで……
〇〇「虹みたい……」
思わずぽつりとつぶやくと、隣でオズワルドさんが深く頷いた。
オズワルド「その通り。計算通り……光線の色はそれぞれ違い、七色の虹がかかっていく。この虹の国、オズにかかる虹を今は皆の手で作り出しているんだ」
〇〇「オズワルドさん……」
オズワルド「大成功!!ってね」
(なんて素敵なんだろう)
オズの夜にかかる虹に、目を奪われていると……
オズワルド「気に入ってくれたのかい?〇〇ちゃん」
不意に、私の腰がオズワルドさんにそっと抱き寄せられた。
〇〇「っ……」
ぐっと近づいた距離に恥じらいながらも、こんな魔法のような光景を生み出せる人の腕の中にいるのだと、心が熱くなる。
〇〇「とても素敵で……もちろん気に入りました」
オズワルド「まあ僕は……発明というか、実験してみたかっただけだけど」
そんなことを言いながら、街の人達の笑顔を見つめるオズワルドさんの顔は、とても柔らかで……
〇〇「そんなこと言って……皆のためにやったことなんですよね?」
オズワルド「まあ、それもある……一応王子だし」
こちらに視線を戻したかと思うと、オズワルドさんはそのまま私の頬に手を添えた。
オズワルド「惚れ直すところだったでしょ?」
〇〇「……!」
オズワルド「くくっ……正直な顔をしているねぇ。そんな君だから、僕も惹かれるんじゃないかな」
〇〇「あ……」
そっと、こめかみに唇が寄せられて……優しくそこに押し当てられた。
温かで柔らかな感触が、鼓動をトクトクと速めていく。
オズワルド「未来の始まりにふさわしい光景だろう?この光景と楽しみを、皆に与えてあげたかったけど……何よりも見せたかったのは君だよ。〇〇ちゃん……」
いつになく甘い彼の囁きに、耳まで熱く火照っていく。
オズワルド「職権乱用って、王子様クビになっちゃうかな?」
〇〇「……ばれたら怒られちゃいますよ」
オズワルド「ふふっ、怒られる……か」
おもむろにオズワルドさんが卵を取り出し、ぽんと宙に放り出す。
〇〇「オズワルドさん?」
オズワルドさんが素早く光線銃を手にしてそれを打ち抜くと、私たちのすぐ傍に虹が架かった。
〇〇「あ……」
その瞬間……
〇〇「!」
虹に隠れながら、私の唇に小さくキスが落とされる。
オズワルド「素敵な夜をありがとう、〇〇ちゃん」
山車の特等席で過ごす、オズの魔法の夜……
けれど私の心を惹きつけてやまない彼の笑顔こそが、私にとって一番、不思議な魔法のように思えた…―。
おわり。