感謝祭を邪魔する雨雲は、僕の技術で消え去った。
昨日までの雨はすっかり晴れて、美しい青空が広がっている。
オズワルド「これが本当の大成功だねぇ……! さぁおいで!○○ちゃん」
(初めて君と一緒に過ごす、感謝祭……)
(最高の思い出をつくろうじゃぁないの!)
○○ 「あっ……」
○○ちゃんをぐっと引き寄せて、完成した山車の上へ飛び乗るよううに駆け上がる。
その瞬間、ファンファーレが盛大に響き始めた。
オズワルド「感謝祭の始まりだよ!」
感謝祭に集まった国の人々から、わぁっと歓声が上がる。
子どもも大人も一緒になって、パレードに参加したり、その行進を見物し始めた。
オズワルド「さぁ、君は特等席へ」
僕がソファを指し示すと、○○ちゃんはそっと腰かける。
○○ 「ありがとうございます」
彼女はそう言うと、始まったばかりの盛大なお祭りを見下ろした。
そんな楽しげな表情を見ていると、幸せな気持ちが溢れてきて……
(けど、まだまだ序の口……もっと驚く装置が待っているんだからね!)
オズワルド「さてさて、では感謝祭といえば?」
○○「え……?」
急な質問に驚いたのか、○○ちゃんが瞳を瞬かせる。
(いいね……そんな顔がパッと輝く瞬間が楽しみだよ)
そう思いながら、僕は色とりどりの卵を取りだした。
オズワルド「感謝祭といえば、卵なんだよ。 それ……っ!」
○○「あっ……!」
手にした卵を山車の上から勢いよく投げる。
すると○○ちゃんは驚いたように立ち上がり……
○○「あれ……?」
(驚いてる驚いてる。とーってもいい表情だね♪)
ぷかぷかとシャボン玉のように空中を彷徨う卵を、○○ちゃんが不思議そうに見つめる。
(だけど、まだまだこれからだよ)
(あれを見て君がどんな顔をするか、楽しみで仕方がないな)
はやる気持ちを抑えながら、僕は片手の親指と中指を合わせた。
そして……
オズワルド「パチン……!」
○○「っ……!?」
僕が指を弾いた瞬間、空中で卵がぱかっと割れた。
その殻は虹色の粉となり、地上に降り注いでいく。
○○「なんで綺麗……」
オズワルド「ははっ!やっぱり、卵を使うと楽しいねぇ!」
(それに、思った通りすごくいい表情だ。頑張った甲斐があったってものだよ!)
オズワルド「さて、お次は……」
すっかり気をよくした僕は次々に卵を放り投げると、山車の中に設置されたレバーをぐっと引いた。
すると次の瞬間、山車から水が噴き出し始め……
オズワルド「さーて、お待ちかねの、虹だよ!」
○○「っ……!」
空を虹が彩り、街中から子ども達の喜ぶ声と、大人達の感嘆の声が上がり始めた。
ちらりと○○ちゃんを見やると、彼女はうっとりと虹を眺めていたものの……
オズワルド「おやおや、設計ミスかな、こっちまで水がかかるなんて」
○○「え……?」
僕は濡れてしまった○○ちゃんの髪に、そっと触れた。
オズワルド「水の噴出力が思いのほか強かったようだ……かかっちゃったね」
(大丈夫かな?嫌になっていなければいいけど……)
○○「全然平気です。それより……。 虹がいっぱいで、綺麗ですね」
目の前の光景に興奮しているのか、彼女の頬はほのかに赤い。
オズワルド「そりゃあ、よかった。僕は感謝祭で君にしてあげたかったことが果たせて、大満足!」
○○「え……?」
オズワルド「僕はね、この国に新しい文化を作りたいんだよ。このお祭りにしても、僕の技術にしてもね! 卵から虹を作り出す……そんな誰も考えられないような、それでいてハッピーな! ……そんな技術をね」
○○「オズワルドさん……」
(でも……国民を笑顔にするのは、この技術だけじゃない)
オズワルド「あ。ほらほら子ども達が手を振ってるよ。振り返してあげて!」
○○ちゃんが手を振ると、子ども達からわっと歓声が上がった。
(君の笑顔は、皆を幸せにしてくれる……)
(僕の技術と君の笑顔が合わさることで、もっともっと皆を喜ばせることができるんだ)
(こんなに素敵なことなんて、なかなかないよね?)
なおも上がる歓声を聞きながら、僕は彼女に話しかける。
オズワルド「ほら、お姫様に手を振ってもらって喜んでるだろう?」
大きく両手を広げると、少しおどけて彼女の方に向き直った。
オズワルド「そして、僕も想定外なほどずぶ濡れだ。でも、こうなったらとことんやろう! ほら、水鉄砲だよ!これで子ども達と遊ぼう!君のもあるよ」
○○「はい!」
差し出した水鉄砲に○○ちゃんが手を伸ばす。
その瞬間…―。
○○「!」
頭の後ろに手を添えて、彼女を引き寄せて口づける。
(君の笑顔に、愛情と感謝のキスを……)
オズワルド「来てくれてありがとう、○○ちゃん。これからもどうぞよろしく!」
そう言った僕の前に、虹よりも華やかな○○ちゃんの笑顔が輝いていた…―。
おわり。