ソファーに腰かけ、夕焼けに染められていく空を眺める。
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ジーク『これ以上、あなたに触れると……たとえあなたの気持ちを無視しても。 昨日のように抱きしめて、そしてこの腕の中から二度と離したくないと思ってしまう。 なので……しばらく、あなたと距離を取りたいのです』
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その言葉に、自分でも驚くほど胸が痛んでいる。
(私……)
しばらくして、ノックの音とともに、ジークさんがドアの向こうから顔を覗かせた。
ジーク「……お加減はいかがですか?」
優しい声に、私の胸が締めつけられる。
〇〇「もう、大丈夫です」
ジークさんは私と離れたドアの前に立ち、うつむいていた。
〇〇「あの……」
言いかけて、次の言葉が上手く出てこずに口を閉じる。
ジーク「……どうしました?」
(私は……)
ジーク「プリンセス……?」
(私、今までジークさんの言葉を受け取るばかりだった)
ジークさんに触れられなくなって初めて、自分の気持ちに確かな答えを見つける。
(ちゃんと、伝えないと)
ジーク「プリンセス……本当に大丈夫ですか?」
〇〇「ごめんなさい……」
ジーク「な、なぜ謝るのですか!?」
ジークさんは慌てて、私の方に駆けてくる。
肩を強く引かれて、ジークさんの真っ直ぐな瞳が私を覗き込んだけど……
ジーク「……っ!」
彼はすぐにその手を離し、拳を固く握りしめた。
〇〇「離さないでください……」
ジーク「え……」
〇〇「触れて……欲しいです」
固く握りしめられたジークさんの手に、そっと自分の手を重ねる。
ジーク「プ、プ、プリンセス!?」
〇〇「ジークさんに抱きしめられて嬉しいと思う私は……あなたの乙女失格でしょうか?」
想いを全て伝えたくて、ジークさんの瞳を見つめる。
〇〇「ちゃんと私が伝えられなくて、ジークさんに苦しい思いをさせてごめんなさい。 私も、ジークさんのことが好きです」
その瞬間…-。
〇〇「っ……」
長い腕に引き寄せられて、私は暖かな胸に顔を埋めた。
ジーク「こんなに美しい乙女を……私はどの歌劇を見ても、見つけることはできないでしょう。 その乙女に想われるなど……私は世界一の幸せ者です」
〇〇「ジークさん……」
ジーク「プリンセス……あなたが愛おしい」
まるで歌声のように、ジークさんの声が胸に響いた。
ジーク「私の想いのままにあなたを抱きしめていいのなら……私は!」
背中に回された腕が、きつく私をかき抱く。
〇〇「っ……ジークさん……ちょっと、苦しいです」
ジーク「ああっ! すみません!」
驚いて慌てて離れるジークさんの顔が、みるみる赤くなっていく。
ジーク「やはり私は距離を取らないと、あなたを……。 いやしかし! それではまたプリンセスに悲しい想いをさせてしまう……!」
ぐるぐると考えを巡らせると、ジークさんは名案を思いついたように、明るく微笑んだ。
ジーク「次は、あなたの願いを叶えましょう。私が今やりたいことを成し遂げたように!」
〇〇「私ですか?」
ジークさんが、私の手を取って微笑む。
ジーク「私の愛しのプリンセス。どうぞ願いを仰ってください」
囁く声に誘われるように、私はジークさんの耳元に唇を寄せた。
〇〇「私の願いは……」
そっと囁くと、ジークさんの顔がみるみるうちに赤く染まっていく。
ジーク「それは私の願いと同じでは……。 あなたはどこまでも私を喜ばせてくださる」
最初は少し恥ずかしかったジークさんの大仰な言葉が、今では心地よく耳に響いてくる。
そんな自分に、思わず笑みをこぼすと、ジークさんも微笑んでくれた。
ジーク「では、ご要望通りに……」
言葉が途切れて、ジークさんが顔を寄せる。
瞳を閉じると、柔らかな感触が唇に触れた。
〇〇「ん……」
唇がゆっくり離れると、ジークさんが耳元で甘く囁く。
ジーク「もう一度、よろしいでしょうか」
小さく頷くと、さっきよりも激しく、ジークさんが私の唇を奪った。
ジーク「プリンセス……願わくばずっと、私の傍に」
〇〇「はい……」
(ダイヤモンドの乙女のお話は悲恋だったけど)
これからジークさんと紡いでいくのは、幸せな物語なのだと……
繰り返される口づけの中、私はそんなことを思った…-。
おわり。