小鳥のさえずりが朝の空気をふるわせている。
大会の熱も冷めやらぬまま、美しい朝を迎えた。
ノックの音と共に、ジークさんが現れる。
ジーク「おはようございます。プリンセス」
〇〇「ジークさん……」
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ジーク『私はあなたを……。 一人の男として、お慕いしている』
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昨日の告白を思い出して、顔が熱くなっていく。
(ジークさんのあの言葉って……)
彼の言葉の真意を確かめたいと思うけれど、なんとなく聞くことがためらわれてしまう。
ジーク「ああ、もしやまだお仕度中でしたら……私はこれで」
〇〇「い、いえ」
ジーク「そっ……そうですか……では何かあれば私に何でもお申しつけください」
私から目をそらしたまま、ジークさんは恭しく頭を下げた。
(ジークさん、どうしたんだろう。いつもなら真っ直ぐに目を合わせてくれるのに)
〇〇「私のことは大丈夫ですから、ジークさんもゆっくり休んでください。 昨日の疲れもあると思いますし」
ジーク「いえ、疲れなど!」
けれど私に向いた彼の視線が、すぐに横へとそらされてしまう。
(なんだか、様子が変)
〇〇「やっぱりお疲れなんじゃ……」
ジーク「っ……!」
ジークさんに近づこうと一歩踏み出すと、同じようにジークさんが一歩後ろへと下がった。
(え……?)
ジーク「……」
〇〇「ジークさん……?」
名前を呼ぶけれど、彼は顔をうつむかせたまま、その視線を上げようとはしなかった。
(どうして……?)
私を拒むように頑なに視線をそらすジークさんに、自分でも驚くほど寂しさが胸に押し寄せる。
(昨日、告白してくれた後からだよね……)
(もしかしてジークさんは、そのことを後悔しているのかな……?)
ジーク「プリンセス! どうしたのですか!? お顔の色が……!」
やっと顔を上げてくれたジークさんが、ハッと目を見開いて、私を心配そうに見つめてくる。
(私、どんな顔してるんだろう……)
自分が今どんな顔をしているのかもわからない程、胸が苦しい。
ジーク「少し横になられた方がいいでしょう! さ、こちらへ!」
どこかぼんやりと立ち尽くす私を、ジークさんが部屋へと促してくれた。
ジーク「さあ、ベッドに横になって……」
私の腕にジークさんの指が触れたかと思うと、すぐに勢いよく離れてしまう。
ジーク「し、失礼致しました……! で……出直して参ります……!」
〇〇「待ってください!」
私の言葉に、ジークさんがぴたりと立ち止まる。
〇〇「どうして、私を避けるのですか……?」
ジーク「私は……騎士です」
ジークさんが、苦しそうに語り出した。
ジーク「けれど……。 自分の気持ちが……あなたへの気持ちがどんどん大きくなって……抑えが効かない……。 これ以上、あなたに触れると……たとえあなたの気持ちを無視しても。 昨日のように抱きしめて、そしてこの腕の中から二度と離したくないと思ってしまう。 なので……しばらく、あなたと距離を取りたいのです」
〇〇「ジークさん……」
ジーク「あなたは何も悪くないのです……すみません……」
立ち尽くす私を部屋に残して、ドアが音を立てて閉めざされる。
どうしていいかわからずに、私はそっと胸を押さえた…-。