中庭に白亜のテーブルセットを用意し、私はプリンセスをティータイムに誘う。
すべては姫に喜んでもらうため、姫の笑顔を見るために。
そう思っていたが…-。
ミントティーを飲みながら朗らかな時間を過ごしていると、突然、姫の手が私の手に触れた。
手の甲からプリンセスの体温が伝わってくる。
ジーク「プリンセス?」
私の声は、動揺して震えてしまう。
姫は一瞬目を見開くと、その手をそっと引いてしまった。
(よかった……)
(このまま触れていたら、プリンセスの柔らかい手を離せなくなりそうだった……)
そう思うと、胸の鼓動が速度を上げる。
(この感情はなんなのだろうか……?)
私は拳を強く握りしめる。
この時の私は、まだわからないことばかりだった…-。
『乙女と騎士』の絵を見て心を鎮めたい…-。
そう思う一心で、私はオペラホールへと足を運んだ。
(騎士が乙女に忠誠を誓ったように私もプリンセスに……)
(そう決意したのに)
思わず深いため息が漏れてしまう。
ネヴィル「随分と滑稽ですね」
ジーク「ネヴィル卿!」
いつの間にやって来たのか、ネヴィル卿が私の横に立ち、意味ありげな笑みを湛えている。
私はそれに挑むように、彼を見つめた。
ジーク「……どういう意味でしょうか」
ネヴィル「かりそめの姿は乙女に見破られますぞ。 騎士などと言い張っていても、貴殿も一人の男に過ぎませんから」
ジーク「……!」
ネヴィル卿はそう言うと、高笑いをしながら立ち去って行く。
(かりそめの姿など……)
ジーク「……」
(私は……)
突如、私の脳裏にプリンセスの笑顔が浮かぶ。
ジーク「……!」
プリンセスのことを考えると、胸の動悸が激しく鳴る。
そしてそれは、次第に締めつけられるような痛みへと変わっていき…-。
(騎士として、プリンセスにお仕えすることが、私の喜びなのに……)
そう思っていたのに…-。
…
……
いつものように紅茶をたしなんでいると、プリンセスが真剣な眼差しを私に向けてきた。
〇〇「私は、ジークさんの隣を歩きたい。 私は、あなたの隣で、あなたのことをもっと知っていきたい……」
プリンセスの頬は、ほのかに赤く染まっている。
(プリンセスが……私を……!?)
(そんな、まさか……)
〇〇「私は、あなたのことが……」
プリンセスの言葉に、天にも昇るような気持ちになり、激しく動揺してしまう。
それを隠すために、私は手で頬を覆った。
ジーク「こ、このような名誉なことがあっていいのでしょうか……」
〇〇「私、ダイヤモンドの乙女にはなれません。ジークさんの隣で、同じようにあなたに尽くしたいです」
その言葉に、私の中で何かが崩れる音がした…-。
(私は……もう騎士などでなくていい)
(不思議だ。そう思うと心が軽やかだ)
私は〇〇様を引き寄せると、その柔らかい体を強く抱きしめた。
(私は〇〇様を思うあまり、自分自身を偽っていたのだろう)
(ネヴィル卿……悔しいですが、あなたの言った通りだ)
(私は騎士である前に、一人の男だ……)
ジーク「〇〇……」
私は自分の思いのままに、〇〇様の唇に、自分の唇を重ねた。
(あなたの騎士には、私ももうなれないでしょう……けれど)
(私は、あなただけを永遠に愛し抜きます)
私は、そう心に誓った…-。
おわり。