空は晴れ渡り、柔らかな風がカーテンを揺らす…-。
(ジークさんを、好きになってしまった……)
(でも、ジークさんは、騎士として私の傍にいることを望んでいる)
紅茶から立ち上る爽やかな香りが、私の心を落ち着かせてくれる。
私は今まで、ジークさんの言葉を受け取ってばかりだった。
(……ちゃんと、伝えたい)
〇〇「……ジークさん、わがままを見つけました」
ジーク「何でしょう。あなたが望むなら、お茶会でも晩餐会でも……観劇も用意致しましょう。 行きたい所があるならどこへでもお連れ致します」
〇〇「ジークさん、それだと騎士ではなく、召使いになっちゃいます」
私が苦笑いすると、ジークさんは真っ直ぐに言葉を続けた。
ジーク「いいのです。主が幸せなことが、私の幸せなのですから」
(ジークさん……)
〇〇「……違うんです」
嬉しそうに語るジークさんに、私はゆっくりと首を横に振った。
ジーク「……プリンセス?」
深呼吸をして、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
〇〇「私のわがままは……私は……。 私は、ジークさんの隣を歩きたい」
ジーク「隣……とは……?」
ジークさんが私の言葉の真意を探すように、瞳を揺らしている。
〇〇「尽してくださることは嬉しいんです。 このお茶もとてもおいしくて、すごく幸せです。 ネヴィルさんから守ってくださった時も、大会で戦ってくださった時も」
ジーク「それは騎士として当然のことをしたまで」
ジークさんは私の手を取ると、きつく握りしめた。
ジーク「私は、あなたにお仕えすることが喜びなのです! あなたの願いを叶えることが騎士として……!」
はっとジークさんが言葉を止めた。
ジーク「……すみません」
まるで、触れてはいけないものに触れてしまったかのように、ジークさんの手が離れていく。
私はその手をぎゅっと握って、引き止めた。
ジーク「プリンセス……?」
〇〇「騎士としてでないと、ジークさんは私の傍にはいてくれないですか?」
ジーク「……!」
〇〇「私がジークさんにもっと近づきたいと思っては、駄目ですか……?」
ジークさんの瞳が、驚いたように揺れている。
〇〇「私はあなたの隣で、あなたのことをもっと知っていきたい。 ジークさんが私のために何かをしてくれるなら、私もジークさんのために何かしたい。 私は、あなたのことが……」
ジークさんの顔が、赤く染まっていく。
それを抑えるように、空いた片手でジークさんが自分の頬を覆った。
ジーク「こ、このような名誉なことがあっていいのでしょうか……」
瞳を閉じて、ジークさんが眠りから目覚めた日のことを思い出す。
―――――
ジーク『どうか、私にあなたへの忠誠を誓わせてください。ダイヤモンドの乙女よ』
―――――
〇〇「……これが、出会った時に言ってくださった言葉への、私の答えです。 私、ダイヤモンドの乙女にはなれません。ジークさんの隣で、同じようにあなたに尽くしたいです」
ジークさんは静かに一度目を閉じると、真っ直ぐに私に向き直った。
ジーク「……心のどこかで諦めていたのかもしれません。 あなたの気持ちが私へ向くことはないのだと。 だから……騎士という言葉で、自分の気持ちに蓋をした……。 あなたを知れば知るほど、あなたに惹かれていくこの気持ちを……」
ジークさんは、私の手を取ると、甲に唇を落とす。
ジーク「プリンセス……いえ……〇〇」
(初めて名前を呼んでくれた……)
ジーク「今度は私から言わせてください」
優しい瞳が私を見つめた。
ジーク「あなたのことが好きです」
〇〇「ジークさん……」
ジーク「騎士としてではない、一人の男として」
〇〇「はい……!!」
ジーク「そして、あなたに誓います。 例え何があろうと、私はあなたの隣にいることを……。 守るだけではなく、お仕えするだけではなく、愛しい人の傍にいるために。 あなたが望んでくださる限り永遠に……」
ジークさんが引き寄せるままに、私はその胸に体を預けた。
〇〇「まるで、オペラの一幕みたいです」
そっと瞳を閉じて、私はジークさんの胸の高鳴りに耳を澄ませる。
ジーク「ならばこの話は、永遠に語り継がれる愛の物語になるでしょう」
そんな甘い囁きと共に、柔らかな口づけをまぶたに感じた。
(そうだといいな……)
ジークさんの手が頬に触れ、視線が向けられる。
ジーク「〇〇……」
瞳を閉じると、唇と唇が重なり合った。
〇〇「ん……」
ゆっくりと唇が離れ、ジークさんを見上げると、彼はこの上なく優しく私の頬を撫でてくれた。
ジーク「愛しています……」
優しい口づけが、もう一度落とされる。
ジークさんの腕をぎゅっと握って、私も自分の気持ちを伝える。
(ダイヤモンドの乙女には、なれなかったけど)
(ずっと、あなたの傍に……)
柔らかな陽射しに包まれながら、これから紡いでいく幸せな物語に想いを馳せた…-。
おわり。