小鳥のさえずりが朝の空気をふるわせている。
大会の熱もさめやらぬまま、美しい朝を迎えた。
ジーク「おはようございます、プリンセス」
ノックの音と共に、ジークさんが現れる。
ジーク「よく眠れましたか?」
〇〇「はい……」
ジーク「それはよかった」
ジークさんの穏やかな笑顔に、私も嬉しくなって笑顔を返した。
けれど……
ジーク「私に何でもお申しつけください」
〇〇「え……?」
ジーク「騎士として、あなたにできることなら何でもしたいのです」
〇〇「そう……ですか……」
ジークさんの真っ直ぐな言葉に、なぜか私の胸は痛みを覚える。
私の言葉を聞き漏らさないように、ジークさんが流れる髪を耳にかけた。
ジーク「何かご要望はありますか?」
〇〇「いえ……私は、何も」
そうつぶやいた私に、ジークさんが苦笑する。
ジーク「あなたは本当に心が綺麗な方だ。でも、困りましたね。 どんなわがままでも叶えることが、私の喜びなのですが……」
ジークさんが、優雅に笑う。
(わがままか……何かあるかな)
手を口に当てて考えてみるけれど、思いつかない。
〇〇「あの、ジークさん」
ジーク「はい、なんなりと」
〇〇「私、ジークさんにはもう十分良くしてもらってますし……これ以上のことは」
そう言う私に、ジークさんが優しく笑いかける。
ジーク「では、私がして差し上げたいと思うことをしてもよろしいでしょうか?」
(ジークさんが?)
ゆっくりと頷くと、ジークさんが嬉しそうに笑った。
ジーク「では、こちらへどうぞ」
庭に出ると、白磁のテーブルセットが用意してある場所に案内してくれた。
ジーク「今日は風も心地よいので、爽やかな香りのお茶はいかがですか?」
〇〇「はい」
優雅に注がれていく紅茶から、ミントの爽やかな香りが鼻をくすぐる。
〇〇「初めてお城に来た日も、おいしいお茶を淹れてくださいましたね」
ジーク「こうやって気分に合わせてお茶を楽しむことが私の趣味かもしれません」
〇〇「そうなんですか」
(ジークさんの趣味……)
ほんの少しジークさんに近づけたような気がして、嬉しくなる。
けれどまた……
ジーク「お気に召しましたか? いつでもお淹れしますので、仰ってくださいね」
〇〇「……はい」
(仰ってください、か……)
(どうしてだろう。そんな風に言われると胸が痛い)
おいしいはずの紅茶が、ほんの少し苦く感じる。
(こんなに傍にいるのに、とても遠い……)
陽の光に照らされて、ジークさんが光に縁どられる。
(ジークさん……)
気がつくと、私はジークさんに手を伸ばしていた。
ジーク「プリンセス?」
慌てて手を引っ込めて、ジークさんに触れたいと思った自分の気持ちにはっきりした答えを見つけた。
(そっか。私……ジークさんのことが好きになっちゃったんだ)
(でも、ジークさんは、騎士として私の傍にいることを望んでいる)
気づいた瞬間、私の胸に押し寄せるのは、言葉にならない溢れるような気持だった。