窓から星の光が差し込んでいる。
部屋に戻ると、ジークさんは申し訳なさそうに頭を下げた。
ジーク「巻き込んでしまい、申し訳ありません。 せっかくのオペラの余韻を台無しにしてしまった……」
〇〇「いいえ。私、嬉しかったです」
ジーク「え……?」
〇〇「ネヴィルさんに抱き寄せられた時……実は怖いって思ったんです。 でも、ジークさんが助けてくださったので。 ありがとうございました」
心からの言葉だった。
(ジークさんといると、すごく安心する)
ジーク「〇〇……様……」
微笑んで見せると、ジークさんは顔を赤く染めた。
彼は自分を落ち着かせるように一つ息を吐くと、静かに瞳を閉じた。
ジーク「ならば、明後日の試合、絶対に負けられませんね」
〇〇「その……試合とはどういうものなのですか?」
ジーク「貴族の子弟が参加する剣の大会です。 ネヴィル卿とは常に優勝を争って来たのですが……」
ジークさんがさっきのことを思い出すように、目を鋭く細めた。
そして、ふっと柔らかな表情に変わると、私の方に向き直る。
ジーク「私は正々堂々戦い、必ず勝利してみせます。 貴方を守るために……」
〇〇「絶対に、勝ってくださいね……私、応援しています」
ジーク「仰せのままに、プリンセス。あなたの応援があれば、負けることはありません」
(ジークさん……)
ジークさんの紫色の瞳が、力強い炎を宿しているように見えた。
…
……
大会の日になり、私は不安を胸に貴賓席に座っている。
(ジークさん、大丈夫かな)
順当に勝ち進み、ジークさんとネヴィルさんが決勝の舞台に立つ。
(忠誠を誓う女性を守るために身を尽くす……)
―――――
ジーク『ダイヤモンドの乙女に忠誠を誓い命を落とす騎士……』
ジーク『私の夢は、その騎士のように心から忠誠を誓える相手のために身を尽くすこと』
―――――
ジークさんのあの言葉が頭にちらついて、不安が押し寄せてくる。
(競技だし……さすがにそんなことにはならないよね)
そう自分に言い聞かせていると……
ネヴィル「姫」
ネヴィルさんが私の前に跪き、手を取る。
ネヴィル「僕に勝利の祝福を……」
〇〇「っ……!」
戸惑い動けなくなった私の手に、ネヴィルさんの唇が近づけられる。
ジーク「勝負の前に、彼女に触れないでいただきたい」
ジークさんがその肩を掴み、ネヴィルさんを私から引き離した。
ネヴィルさんは、忌々しげな視線をジークさんに向ける。
ネヴィル「このまま尻尾をまいて逃げれば、恥をかかずに済むものを……」
ジーク「私は必ず勝ちます」
ネヴィル「いいでしょう。お相手しましょう」
二人は、貴賓席を離れ剣技場へと向かった。
ネヴィルさんが剣先を、ジークさんへ向ける。
ジーク「……」
応えるようにジークさんが剣を構える。
(ジークさん……!)
会場が静寂に包まれた。
息を飲む音と共に、二人の剣が光を弾きぶつかり合う。
ネヴィルさんの剣が、ジークさんの頬をかすめ、彼を追い詰めている。
(ジークさん! 負けないで……!)
―――――
ジーク『この方に、手出しはさせません!』
ジーク『この方は私の大事な方』
ジーク『ならば、明後日の試合、絶対に負けられませんね』
―――――
〇〇「がんばって、ジークさん!」
思わず声を上げてしまい、ぎゅっと祈るように両手を握りしめたその瞬間…-。
ジークさんの一突きに、ネヴィルさんの手から剣が離れ、後ろへ音を立てて転がり落ちた。
〇〇「ジークさんが、勝った……!!」
歓声が湧き上がる中、ジークさんが汗に輝く笑顔を私に向ける。
(よかった……!)
そして、私の方へゆっくりと歩いてくると……
ジーク「あなたのおかげで、いつも以上の力が出せた。やはりあなたは私の乙女。 私はあなたを……」
熱い息を吐き出して、ジークさんが次の言葉を紡ごうと唇を開いた…-。