満天の星空が輝く中、馬車で城へ戻った…-。
きらきらと輝くドレスの裾を揺らしながら、ジークさんと一緒に部屋へ向かう。
男性1「ジーク様! お久しぶりです!」
男性2「ジーク様が目覚められたと聞いて、会いに来ました!」
城の廊下で、輪になって楽しそうに話している男の人達がジークさんを呼ぶ。
(ジークさんのお友達かな?)
ジーク「貴族の友人です……こんな夜に、全く」
そう言うジークさんは、嬉しそうに目を細めていた。
〇〇「私はここで待っていますから、どうぞ行ってきてください」
ジーク「あなたを一人にするなど……」
〇〇「大丈夫です。とても星が綺麗ですから」
そう言って笑うと…-。
ジーク「すぐに戻ります」
ジークさんは私に一礼して、輪の中へと混ざっていった。
その姿を見つめながら、壁にもたれる。
(ジークさん、楽しそうに笑ってる)
彼の笑顔に、胸が温かくなったその時……
??「ジーク殿もいけませんね……女性を一人待たせるなんて」
ジークさんを見つめていた私は、突然の声に飛び上がりそうになった。
(び、びっくりした)
知らない男性が私の隣に立ち、おもむろに私の肩を抱く。
〇〇「あ、あの……」
ネヴィル「僕はネヴィルと申します。ジーク殿の知人……というところでしょうか」
〇〇「そ、そうだったんですね」
ネヴィルさんと名乗ったその男性は、私を舐めまわすように見つめてくる。
ネヴィル「なるほど……ダイヤモンドの乙女にも引けを取らない、美しい方だ」
(ジークさんのお知り合いの方は、皆こんな言葉を女性にかけるのかな……)
私を褒めそやすジークさんの言葉の数々を思い出した。
(でもなんだか、ジークさんと違って怖い)
〇〇「ジ……ジークさん!」
ネヴィルさんの視線に耐え切れず、思わず、ジークさんの名前を呼んでしまった。
ジーク「!? プリンセス!!」
すると、ジークさんはすぐさま駆けつけてくれた。
ジーク「その方に何か御用ですか? ネヴィル卿」
ジークさんの鋭い声と共に、私の肩からネヴィルさんの手が払いのけられる。
するとあざ笑うように、ネヴィルさんが口の端を上げた。
ネヴィル「何って……この方に、愛を囁いていたのですよ。 ここに一人寂しく立っていらしたので」
ジークさんが、その言葉に眉をひそめる。
ジーク「この方は私の大事な方」
ネヴィル「しかし、婚約者というわけではないでしょう?」
ジーク「……。 この方は……」
ジークさんが言葉を詰まらせて、手を握りしめた。
ネヴィル「知っていますよ。トロイメアの姫でしょう」
ジーク「……そうだ。失礼はやめていただこう」
ネヴィル「貴殿が彼女の婚約者でないならば……。 僕が彼女にプロポーズしようと構わないでしょう?」
(プロポーズ!?)
驚いてネヴィルさんを見上げると、彼は私の手をそっと引き寄せる。
ネヴィル「美しい方。僕は……」
ジーク「その方に触れるな!」
〇〇「……!」
いつも穏やかなジークさんの鋭い声に、辺りがしんと静まり返る。
(ジークさん……)
時が止まったような静けさの中で、ただ一人、ネヴィルさんだけがニヤリと笑った。
ネヴィル「……なるほどね」
ジークさんの肩を、ネヴィルさんが軽くたたく。
ネヴィル「丁度いい。明後日、城内で剣の技を競う大会がありましたね。 その大会に参加し、姫君をかけて決闘する……というのは如何ですか? 私か、あなたか。勝った方が姫君にプロポーズできる」
ジーク「神聖な大会に……私情を持ち込むおつもりですか?」
ネヴィル「嫌なら結構。その時は……」
ネヴィルさんの舐めるような視線から逃れたくて、私はジークさんの元に駆け寄った。
ジークさんはネヴィルさんから私をかばうように、腕を伸ばした後……
ジーク「いいでしょう。受けて立ちます」
きっぱりと、声を発した。
〇〇「ジークさん……っ!」
ジーク「そのかわり、その方を不躾に見つめるのはやめなさい」
ネヴィルさんは、嫌らしい笑みを浮かべる。
ネヴィル「……いい試合になりそうだ」
ジークさんの突き刺すような視線をさらりとかわして、ネヴィルさんは去って行った。
ジーク「……お部屋にお送りします」
〇〇「はい……」
ネヴィルさんの嫌な手の感覚が、まだ残っている。
(……っ)
身震いすると、そっとジークさんが私の背に手を添えてくれた。
ドレス越しに伝わるジークさんの掌の暖かさが、驚くほど私の心を落ち着かせてくれた…-。