第4話 恋敵

満天の星空が輝く中、馬車で城へ戻った…-。

きらきらと輝くドレスの裾を揺らしながら、ジークさんと一緒に部屋へ向かう。

男性1「ジーク様! お久しぶりです!」

男性2「ジーク様が目覚められたと聞いて、会いに来ました!」

城の廊下で、輪になって楽しそうに話している男の人達がジークさんを呼ぶ。

(ジークさんのお友達かな?)

ジーク「貴族の友人です……こんな夜に、全く」

そう言うジークさんは、嬉しそうに目を細めていた。

〇〇「私はここで待っていますから、どうぞ行ってきてください」

ジーク「あなたを一人にするなど……」

〇〇「大丈夫です。とても星が綺麗ですから」

そう言って笑うと…-。

ジーク「すぐに戻ります」

ジークさんは私に一礼して、輪の中へと混ざっていった。

その姿を見つめながら、壁にもたれる。

(ジークさん、楽しそうに笑ってる)

彼の笑顔に、胸が温かくなったその時……

??「ジーク殿もいけませんね……女性を一人待たせるなんて」

ジークさんを見つめていた私は、突然の声に飛び上がりそうになった。

(び、びっくりした)

知らない男性が私の隣に立ち、おもむろに私の肩を抱く。

〇〇「あ、あの……」

ネヴィル「僕はネヴィルと申します。ジーク殿の知人……というところでしょうか」

〇〇「そ、そうだったんですね」

ネヴィルさんと名乗ったその男性は、私を舐めまわすように見つめてくる。

ネヴィル「なるほど……ダイヤモンドの乙女にも引けを取らない、美しい方だ」

(ジークさんのお知り合いの方は、皆こんな言葉を女性にかけるのかな……)

私を褒めそやすジークさんの言葉の数々を思い出した。

(でもなんだか、ジークさんと違って怖い)

〇〇「ジ……ジークさん!」

ネヴィルさんの視線に耐え切れず、思わず、ジークさんの名前を呼んでしまった。

ジーク「!? プリンセス!!」

すると、ジークさんはすぐさま駆けつけてくれた。

ジーク「その方に何か御用ですか? ネヴィル卿」

ジークさんの鋭い声と共に、私の肩からネヴィルさんの手が払いのけられる。

するとあざ笑うように、ネヴィルさんが口の端を上げた。

ネヴィル「何って……この方に、愛を囁いていたのですよ。 ここに一人寂しく立っていらしたので」

ジークさんが、その言葉に眉をひそめる。

ジーク「この方は私の大事な方」

ネヴィル「しかし、婚約者というわけではないでしょう?」

ジーク「……。 この方は……」

ジークさんが言葉を詰まらせて、手を握りしめた。

ネヴィル「知っていますよ。トロイメアの姫でしょう」

ジーク「……そうだ。失礼はやめていただこう」

ネヴィル「貴殿が彼女の婚約者でないならば……。 僕が彼女にプロポーズしようと構わないでしょう?」

(プロポーズ!?)

驚いてネヴィルさんを見上げると、彼は私の手をそっと引き寄せる。

ネヴィル「美しい方。僕は……」

ジーク「その方に触れるな!」

〇〇「……!」

いつも穏やかなジークさんの鋭い声に、辺りがしんと静まり返る。

(ジークさん……)

時が止まったような静けさの中で、ただ一人、ネヴィルさんだけがニヤリと笑った。

ネヴィル「……なるほどね」

ジークさんの肩を、ネヴィルさんが軽くたたく。

ネヴィル「丁度いい。明後日、城内で剣の技を競う大会がありましたね。 その大会に参加し、姫君をかけて決闘する……というのは如何ですか? 私か、あなたか。勝った方が姫君にプロポーズできる」

ジーク「神聖な大会に……私情を持ち込むおつもりですか?」

ネヴィル「嫌なら結構。その時は……」

ネヴィルさんの舐めるような視線から逃れたくて、私はジークさんの元に駆け寄った。

ジークさんはネヴィルさんから私をかばうように、腕を伸ばした後……

ジーク「いいでしょう。受けて立ちます」

きっぱりと、声を発した。

〇〇「ジークさん……っ!」

ジーク「そのかわり、その方を不躾に見つめるのはやめなさい」

ネヴィルさんは、嫌らしい笑みを浮かべる。

ネヴィル「……いい試合になりそうだ」

ジークさんの突き刺すような視線をさらりとかわして、ネヴィルさんは去って行った。

ジーク「……お部屋にお送りします」

〇〇「はい……」

ネヴィルさんの嫌な手の感覚が、まだ残っている。

(……っ)

身震いすると、そっとジークさんが私の背に手を添えてくれた。

ドレス越しに伝わるジークさんの掌の暖かさが、驚くほど私の心を落ち着かせてくれた…-。

 

 

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