第3話 ダイヤモンドの乙女

夜を迎え、星が空高くに瞬き始める。

(お誘い……お断りできなかったな)

ジークさんに是非にと誘われ、私はこの国の首都にあるオペラホールへとやって来ていた。

ジーク「まばゆいほどにお綺麗ですよ」

私は、ジークさんが贈ってくれたドレスに身を包んでいる。

〇〇「こんなに綺麗なものをいただいてしまって……」

星屑をまぶしたように宝石が散りばめられたドレスの美しさに、私はため息を吐いた。

ジーク「あなたの輝きの前には、このドレスの煌めきも霞んでしまう」

〇〇「っ……そっ、そんなことは……」

(ジークさんって……)

ジークさんの大仰な言葉に、また頬が熱くなるのを感じる。

ジーク「本当に、お美しい」

〇〇「ありがとうございます……」

ジーク「まるで、これから始まる物語の乙女のようです」

(そういえば、これから見るオペラは女性が主人公だって聞いた)

〇〇「……どんなお話なんですか?」

ジーク「物語は『乙女と騎士』。この国で昔から愛されているお話です。 ダイヤモンドの乙女と、乙女に忠誠を誓った騎士の悲恋の物語なんですよ」

〇〇「悲恋……」

ジーク「ええ、騎士の乙女に対する想いと忠誠心が、運命を変えていくのですが。 ……! あまり話し過ぎては、楽しみが無くなりますね。失礼しました……」

慌てるジークさんがなんだか可愛くて、笑みがこぼれる。

〇〇「ふふっ、始まるのが待ち遠しくなってきました」

ジーク「ええ、私も」

ホールの明かりが落とされ、幕が上がる。

美しい歌声と共に、純白のドレスを身に纏った女性が現れた。

……

(素敵なお話だったな……)

オペラが終わると、いつの間にか頬を濡らしていた涙を、ジークさんが指ですくってくれる。

〇〇「ありがとうございます」

そう言うと、彼は優しく微笑みかけてくれた。

何だか少し恥ずかしくなり、ジークさんから視線をそらすようにホールに飾られた絵を見上げる。

(さっきの乙女と同じ服装……)

〇〇「もしかして、この絵の女の人がダイヤモンドの乙女ですか?」

ジーク「ええ」

(綺麗な女性)

ジーク「ダイヤモンドの乙女に忠誠を誓い命を落とす騎士……。 私の夢は、その騎士のように心から忠誠を誓える相手のために身を尽くすこと」

ジークさんの長い指が、恋い焦がれるように絵の中の乙女に伸ばされる。

決して絵には届かないその手は、やがて私に向き直ったジークさん自身の胸にあてがわれた。

ジーク「そして今、あなたに出会った。私が心から忠誠を誓える相手に」

〇〇「騎士として……ですか?」

ジーク「はい……この身が尽きるその時まで、私はあなたの騎士でありたい」

(騎士として……)

―――――

ジーク『その美しい瞳、優しい表情……これほど魅力的な方を私は他に知らない。 目覚めて一目見た瞬間、私はあなたに心を奪われたのですよ』

ジーク『私は信じております、これが運命であると……』

―――――

(あの言葉は……騎士として、だったんだ)

ジーク「プリンセス、どうしました?」

〇〇「いえ……」

(私、何を期待してたんだろう)

胸にわだかまる気持ちをどう伝えたらいいのかわからずにいた時……

〇〇「っ……!」

突然足に痛みが走って、体のバランスを崩してしまう。

ジーク「プリンセス!」

ジークさんの長い腕が私を引き寄せ、しっかりと支えてくれた。

ジーク「お怪我はありませんか?」

〇〇「大丈夫です」

けれど…-。

〇〇「あ……」

慣れないヒールを履いたせいか、靴擦れができてしまっていた。

ジーク「プリンセス! ……失礼」

ジークさんが私をふわりと抱き上げた。

彼の腕に抱かれて、私の胸がトクンと音を立てる。

ジーク「騎士として、いつでもあなたの力になりたい。 さあ、帰りましょう」

〇〇「はい……」

ホールに飾られた乙女の絵が、私の目に止まる。

(騎士と、して……)

その絵の中の女性が、私にはなぜだか悲しい表情に見えた…-。

 

 

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