一面に広がる雪原に、冷たい風が吹き荒んでいる…-。
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凍哉『俺が少しでも笑えば、暖気を呼び込み、この国に春が訪れる。 でも、今年は100年に一度の儀式が行われるから……。 それまで俺は、決して笑うわけにはいかないんだ』
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儀式の日まで、凍哉さんはずっと笑顔を消していなければいけない。
(この国の凍てつく冬を、凍哉さんはずっと笑顔なしで乗り越えてきたんだ……)
凍哉「……そろそろ帰ろう」
その横顔は、寒さでじっと耐え抜く、冬枯れの木々のようで……どこか寂しげにも見えた。
凍哉さんが歩き出そうとした、その時…-。
男性「凍哉様、こんにちは。神渡りの儀式を楽しみにしています!」
蓬莱の街の人が、凍哉さんに駆け寄り、にこやかに話しかけてきた。
凍哉「……ああ」
素っ気ない凍哉さんに、男性は少し気が引けてしまったようだった。
男性「っ……! お邪魔して申し訳ありません……では、失礼します」
(凍哉さん……)
(笑えないことで、国民の皆さんに誤解されてるんじゃ?)
凍哉「……行くよ」
凍哉さんは表情を消したまま、先に歩き出す。
〇〇「あ、待ってください、凍哉さ……!」
慌てて駈け出そうとした、その時…-。
(わっ……!)
凍哉「!?」
深い雪に足を取られて、大きくバランスを崩す。
(転ぶ……!)
雪の積もった緩やかな坂を、滑り落ちてしまいそうになって……
凍哉「〇〇!」
凍哉さんが叫ぶ声が聞こえたかと思うと、腕が掴まれ、力強く引っ張られた。
〇〇「っ……」
けれど、そのまま勢いが余ってしまい……
凍哉「!」
凍哉さんと一緒に、雪の上に倒れ込んでしまった。
(わっ……!?)
気づけば、凍哉さんの胸に伸しかかる形になっている。
〇〇「す、すみません!」
凍哉「……」
私も凍哉さんも、見事に雪まみれになってしまっていた。
〇〇「あの、凍哉さ……」
凍哉さんの顔を見上げ、おずおずと口を開けば……
(!)
凍哉さんは私の顔を隠すように、きつく自分の胸元へ抱き込んだ。
凍哉「顔を見せないで」
厳しく言いつける声が、少しだけ震えている。
凍哉「……君の顔を見ると、うっかり笑ってしまいそうになる」
(え……?)
突然抱きしめられたことで、驚きに心臓が高鳴り……
〇〇「ごめんなさい……凍哉さんを巻き込んで、その上雪まみれにしてしまって……」
凍哉「頼むから、それ以上しゃべらないで……」
懇願に近い、参ったような声がぽつりとこぼされる……
凍哉「今度また、俺を笑わせるようなことしたら……お仕置きだからね」
(もしかして……笑いたいのを、ずっと我慢して……?)
彼が顔を背けるたび、笑うのを必死で耐えていたことに気づく。
(こんなことを思ったら、また叱られちゃうかもしれないけど)
そんな凍哉さんが、だんだんかわいく思えてきてしまうのだった…-。