第2話 春待ちの宴

凍哉さんから正式な招待を受け、蓬莱の国を訪れた私は…-。

〇〇「さ、寒い……!」

吹きつける冷たい風に、堪らず首をすくませる。

春はもう目の前だというのに、辺りは一面雪景色だった。

凍哉「……ようこそ、蓬莱へ」

素っ気ない歓迎の言葉と共に、凍哉さんが私を出迎えてくれる。

(凍えそう……)

〇〇「あ、ありがとうございます」

私は自分の体をだきしめるようにさすりながら、凍哉さんに返事をした。

凍哉「どうしたの?」

〇〇「いえ……もうすぐ春なのに、今日はすごく寒いなって……」

あまりの冷え込みに、歯の根がかちかちと鳴ってしまいそうになる。

凍哉「だろうね。そんな薄着じゃ……」

言いかけて、凍哉さんははっとしたように口元を押さえた。

ぶるぶる震えている私から、素早く目を逸らす。

(凍哉さん……?)

凍哉さんは、何かを耐えるようにじっと目を閉じた後……

真顔に戻り、黙って私に向き直る。

凍哉「これを……」

凍哉さんは袂から和柄の織物を取り出し、私の肩にふわりとかけてくれた。

(暖かい……)

〇〇「凍哉さんは寒くないんですか?」

凍哉「ああ……心地よい寒さだよ」

(さすが、冬を司る国の王子様……)

凍哉さんの気遣いに感謝しつつ、その背中について歩きだした。

その夜、大広間では盛大な歓迎の宴が催された。

(なんて綺麗で、繊細なお料理……)

美しい創作料理を前に、わくわくと胸が躍る。

国王「それにしても、〇〇殿はいい時期においでくださった」

(こんな寒いのに、今がいい時期……?)

国王「今年は100年に一度の大寒波。そのおかげで、我が国最大の湖が凍って氷柱が立つのです。 その氷柱こそ、神の道……。 その道を進むと、湖の先にある祠にたどり着く。そこで儀式がとり行われるのですよ」

〇〇「100年に一度だなんて、とても貴重な機会ですね」

国王「ええ、国中が喜びに沸いています。凍哉、しっかりするんだぞ」

凍哉「……はい」

(凍哉さん、儀式で役目があるのかな?)

国王様と、歓談を楽しんだ後……

盛り上がった広間で、皆が音楽に合わせて即興で舞い始めた。

おどけたその様子がおかしくて、私もくすくすと笑ってしまう。

凍哉「……」

ふと凍哉さんを見ると、お酒にも手をつけず、黙って目を閉じていた。

(凍哉さん、体調が優れないのかな……?)

〇〇「あの、凍哉さん……」

凍哉さんの傍へ行くため、立ち上がろうとした瞬間……

(! 足が痺れて……)

長時間、正座をしていたせいで、よろけてぐらりと体が傾いた。

〇〇「わっ……」

耐えきれず、派手に転んでしまう。

凍哉「!」

派手に転んだ私から、凍哉さんは思いきり顔を逸らす。

(は、恥ずかしい……!)

〇〇「足が痺れてしまって、失礼しました……」

足をさすりながら、ぎこちなく謝る私に、凍哉さんは……

凍哉「……」

口元を押さえて立ち上がり、足早に部屋を出ていってしまった。

(凍哉さん、やっぱり体調が悪いのかな? それとも……)

(……呆れられたのかな)

私は座り込んだまま、凍哉さんの背中を見送るしかなかった…-。

 

 

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