凍哉さんから正式な招待を受け、蓬莱の国を訪れた私は…-。
〇〇「さ、寒い……!」
吹きつける冷たい風に、堪らず首をすくませる。
春はもう目の前だというのに、辺りは一面雪景色だった。
凍哉「……ようこそ、蓬莱へ」
素っ気ない歓迎の言葉と共に、凍哉さんが私を出迎えてくれる。
(凍えそう……)
〇〇「あ、ありがとうございます」
私は自分の体をだきしめるようにさすりながら、凍哉さんに返事をした。
凍哉「どうしたの?」
〇〇「いえ……もうすぐ春なのに、今日はすごく寒いなって……」
あまりの冷え込みに、歯の根がかちかちと鳴ってしまいそうになる。
凍哉「だろうね。そんな薄着じゃ……」
言いかけて、凍哉さんははっとしたように口元を押さえた。
ぶるぶる震えている私から、素早く目を逸らす。
(凍哉さん……?)
凍哉さんは、何かを耐えるようにじっと目を閉じた後……
真顔に戻り、黙って私に向き直る。
凍哉「これを……」
凍哉さんは袂から和柄の織物を取り出し、私の肩にふわりとかけてくれた。
(暖かい……)
〇〇「凍哉さんは寒くないんですか?」
凍哉「ああ……心地よい寒さだよ」
(さすが、冬を司る国の王子様……)
凍哉さんの気遣いに感謝しつつ、その背中について歩きだした。
その夜、大広間では盛大な歓迎の宴が催された。
(なんて綺麗で、繊細なお料理……)
美しい創作料理を前に、わくわくと胸が躍る。
国王「それにしても、〇〇殿はいい時期においでくださった」
(こんな寒いのに、今がいい時期……?)
国王「今年は100年に一度の大寒波。そのおかげで、我が国最大の湖が凍って氷柱が立つのです。 その氷柱こそ、神の道……。 その道を進むと、湖の先にある祠にたどり着く。そこで儀式がとり行われるのですよ」
〇〇「100年に一度だなんて、とても貴重な機会ですね」
国王「ええ、国中が喜びに沸いています。凍哉、しっかりするんだぞ」
凍哉「……はい」
(凍哉さん、儀式で役目があるのかな?)
国王様と、歓談を楽しんだ後……
盛り上がった広間で、皆が音楽に合わせて即興で舞い始めた。
おどけたその様子がおかしくて、私もくすくすと笑ってしまう。
凍哉「……」
ふと凍哉さんを見ると、お酒にも手をつけず、黙って目を閉じていた。
(凍哉さん、体調が優れないのかな……?)
〇〇「あの、凍哉さん……」
凍哉さんの傍へ行くため、立ち上がろうとした瞬間……
(! 足が痺れて……)
長時間、正座をしていたせいで、よろけてぐらりと体が傾いた。
〇〇「わっ……」
耐えきれず、派手に転んでしまう。
凍哉「!」
派手に転んだ私から、凍哉さんは思いきり顔を逸らす。
(は、恥ずかしい……!)
〇〇「足が痺れてしまって、失礼しました……」
足をさすりながら、ぎこちなく謝る私に、凍哉さんは……
凍哉「……」
口元を押さえて立ち上がり、足早に部屋を出ていってしまった。
(凍哉さん、やっぱり体調が悪いのかな? それとも……)
(……呆れられたのかな)
私は座り込んだまま、凍哉さんの背中を見送るしかなかった…-。