第1話 咲かない花

四季の国・蓬莱 凪の月…-。

少しずつ寒さが落ち着き、春の兆しを数える頃…-。

冬を司るという、蓬莱の王子・凍哉さんがゆっくりとまぶたを開け、眠りから目覚めた。

凍哉「……世話になったみたいだね。ありがとう」

感謝の言葉とは裏腹に、凍哉さんは私からすっと冷たく視線を逸らす。

(私、何か気に障ることでも……?)

立ち尽くす私達の間に、気まずい沈黙が落ちた。

〇〇「あの……蓬莱の国も、じきに春ですね。花もたくさん咲き始める頃でしょうし」

凍哉「……蓬莱に興味があるの?」

気を引かれたように、凍哉さんが私にちらりと視線を寄こす。

〇〇「四季の国は、歴史ある雅な国だと聞いているので。 ぜひ、私も訪れてみたいです」

凍哉「……そう。なら、近く君を招待する」

つぶやくような小さな声で、凍哉さんが私を誘ってくれた。

凍哉「君のおかげで儀式にも間に合う。お礼くらいはする」

(……儀式?)

凍哉さんの言葉が気になりながらも、私は心の中で安堵のため息を吐いていた。

(嫌われてるわけじゃないのかな?)

凍哉「……でも、期待しない方がいいよ」

目を合わせないまま、凍哉さんがぽそりとつぶやく。

〇〇「え?」

凍哉「花なんて、まだ蕾も膨らんでない。 ……春が来たら、困るから」

言葉を残し、凍哉さんは静かに背を向けた…-。

 

 

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