四季の国・蓬莱 凪の月…-。
少しずつ寒さが落ち着き、春の兆しを数える頃…-。
冬を司るという、蓬莱の王子・凍哉さんがゆっくりとまぶたを開け、眠りから目覚めた。
凍哉「……世話になったみたいだね。ありがとう」
感謝の言葉とは裏腹に、凍哉さんは私からすっと冷たく視線を逸らす。
(私、何か気に障ることでも……?)
立ち尽くす私達の間に、気まずい沈黙が落ちた。
〇〇「あの……蓬莱の国も、じきに春ですね。花もたくさん咲き始める頃でしょうし」
凍哉「……蓬莱に興味があるの?」
気を引かれたように、凍哉さんが私にちらりと視線を寄こす。
〇〇「四季の国は、歴史ある雅な国だと聞いているので。 ぜひ、私も訪れてみたいです」
凍哉「……そう。なら、近く君を招待する」
つぶやくような小さな声で、凍哉さんが私を誘ってくれた。
凍哉「君のおかげで儀式にも間に合う。お礼くらいはする」
(……儀式?)
凍哉さんの言葉が気になりながらも、私は心の中で安堵のため息を吐いていた。
(嫌われてるわけじゃないのかな?)
凍哉「……でも、期待しない方がいいよ」
目を合わせないまま、凍哉さんがぽそりとつぶやく。
〇〇「え?」
凍哉「花なんて、まだ蕾も膨らんでない。 ……春が来たら、困るから」
言葉を残し、凍哉さんは静かに背を向けた…-。