〇〇が、カラス一族撃退の計画を手伝うようになってしばらく…-。
リーヤ「おい、そこの計測器取ってくれ」
〇〇「はい」
リーヤ「あー、あとこれ、計算できる?」
〇〇「はい、やってみます……!」
ペンを手に、〇〇は設計図に向き合うけど……
〇〇「うーん……」
難しい顔をして、ぴたりと動きを止めてしまった。
(……ったく)
リーヤ「ほら、この公式をこうやって使うんだよ」
隣から手を伸ばし、書きかけの数式を完成させる。
〇〇「なるほど……!」
リーヤ「続き、やれそーか?」
〇〇「はい、なんとか……!」
そしてまた、〇〇は設計図と睨み合いを始めた。
(物好きな奴)
懸命に俺を手伝ってくれる、〇〇をまじまじと見つめる。
(なんか……久しぶりの感覚っつーか……)
俺の領の奴らは、自分の頭で考えるってことがどうも苦手だ。
何かあるとすぐに俺に頼ってきて、それはそれで最初のうちは俺も嬉しかったんだけど……
(いつからだっけなあ……寂しいだなんて思うようになったの)
この計画も、全部一人で考えて、進めてきた。
(こうして、誰かと一緒にやるなんて)
胸の奥が、なんかあったかくなってくる。
(あー……こいつがいてくれて、嬉しいんだな。俺)
心がソワソワして作業に身が入らなくなった俺は、〇〇に休憩を促した。
リーヤ「それにしても、お前……よく頑張ってるよな」
〇〇「え……?」
リーヤ「正直、どっかで逃げ出すんじゃねーかって思ってたけど……」
〇〇「リーヤさんは、すごく優しいのに……そんなことしません」
(優しい?……俺が?)
思いもよらない言葉に、俺は笑ってしまった。
リーヤ「俺が優しいって?お前、ちょっと頭おかしいんじゃねーのか」
〇〇「でも……皆、リーヤさんを慕ってるし」
リーヤ「そりゃ、俺の脳みそを頼りにしてっからだろ」
そう言ってから、少し後悔する。
(いけねえ……ちょっと卑屈だったか?)
(でも、こいつと話してると、つい本音を言っちまう)
〇〇「そんなこと……!」
予想通り、〇〇は悲しそうな顔をする。
(……お前にそんな顔させたいわけじゃねえんだけどな)
(駄目だ、止まんねえ)
リーヤ「それに、つまんねーよ」
〇〇「え……?」
リーヤ「つまんねー……俺も昔は、ない頭必死に絞って、馬鹿って言われたくなくて……」
胸の内に秘めていた思いが次々にこぼれていく。
リーヤ「けど、望みが叶っちまって、今、天才って言われるようになれば。 これはこれで、ちょっと寂しいっつーか……マジで、ひとりぼっちみたいじゃん……」
(俺……今、どんな顔してんのかな)
気恥ずかしくなり、帽子で顔を覆い隠す。
(ずっと、寂しかったんだ……)
防止の隙間から、〇〇の小さな手が見える。
リーヤ「〇〇……」
〇〇「……!」
つぶやくように名前を呼んで、俺はその手を握りしめた。
リーヤ「もしさ……この計画が上手くいって国が守れるようになったら……。 俺、また昔みたいに旅に出たい。 昔みたいに、すげーモン探して心きらきらさせて、旅したいんだ……」
誰にも言えなかった、俺の気持ち……
〇〇は何も言わず、俺の手をただ強く握り返してくれた…-。
…
……
その後も俺達は作業を続けていたけれど…-。
リーヤ「おい、〇〇。今日はもうそろそろ…―」
気づけば随分時間が経っていて、俺は慌てて〇〇に声をかけた。
〇〇「……」
(あ……)
〇〇は、ソファに体を預け、静かな寝息を立てていた。
リーヤ「……疲れた、よな」
引き寄せられるように近づいて、その顔を覗き込む。
柔らかな髪が、長いまつ毛にふわりとかかっていた。
(……綺麗だ)
小さな唇に誘われ、息がかかるぐらいに顔を近づける…-。
リーヤ「……っ! 俺は、何やって…-」
大声を出しそうになり、慌てて口を閉じた。
(……あぶねー……)
顔を逸らし、彼女を起こさないように隣に座り込む。
俺の重みでソファがわずかに沈み込み、〇〇のまつ毛が震えた。
リーヤ「……お疲れさん」
そっと、彼女の髪を撫でてみる。
優しい感覚が、一日の疲れを吹き飛ばしてくれるみたいで……
リーヤ「なあ、これからも……俺についてきてくれるか?」
願うようにそう問いかける。
こんなにもドキドキと高鳴る自分の心臓の音を、俺は久しぶりに聞いたような気がした…-。
おわり。