私が街で、ある行動を起こし始めてからしばらくの月日が流れた。
大案山子一号を暴走させてしまったリーヤさんは、塞ぎ込んだままだったけれど…-。
リーヤ「……〇〇。カラス共、襲ってきていないってな」
リーヤさんが、ふと 何かを思うかのように口を開いた。
〇〇「はい。このところは、平和みたいです」
リーヤ「そっか……」
〇〇「リーヤさんの、おかげですよ?」
控えめに言うと、リーヤさんは、ほんの少しだけ笑ってくれた。
リーヤ「街の人の被害も、怪我人が数人で済んだし……」
〇〇「はい」
リーヤ「旅にでも出るか」
〇〇「……!」
思いもよらなかった発言に、面食らってしまう。
リーヤ「久しぶりに……オズワルドのとこにでも、行ってみるかな……」
〇〇「……リーヤさん」
沈んだ声がたまらなくて、私はリーヤさんの手を取り歩み出した。
リーヤ「〇〇……?」
〇〇「ついてきてください」
私達は、市街地へと向かった…-。
そして…-。
リーヤ「なんだ、これは……」
リーヤさんが、目を丸くして足を止めた。
そこには、立派に家を建て直す人々の姿があった。
リーヤ「嘘だ……信じられない……こいつらが、考えて再建するなんて……」
〇〇「私が、声をかけさせてもらいました」
リーヤ「お前、が……?」
〇〇「はい。でも少しだけです。その後は、皆さんが自分で……」
リーヤさんは、本当に信じられないものを見る目で彼らを見ている。
〇〇「皆、自分達で考えてリーヤさんのために街を再建しているんです」
(だからひとりぼっちでやっていくなんて、もう……言わないよね?)
街の人1「リーヤ様だーっ!」
煉瓦を積み上げていた街の人が、リーヤさんに気がついた。
街の人2「っ! リーヤ様! リーヤ様!!」
あっという間にできる人だかりに、リーヤさんは困惑気味に眉を寄せる。
リーヤ「……俺のこと、怒ってねーのか……?」
街の人3「怒る?リーヤ様は怒るんですか?」
リーヤ「ちげーよ!俺が、その……でっけえ案山子でぐちゃぐちゃにしちまっただろ!」
街の人4「あーっ、ぐちゃぐちゃにやっつけた!」
街の人5「カラスをやっつけてくださったリーヤ様!」
街の人6「リーヤ様! リーヤ様!!」
やはり困った顔で立ち尽くすリーヤさんに、私はそっと寄り添った。
〇〇「皆、リーヤさんが英雄だとしか思ってませんよ。 リーヤさんに喜んでほしくて、感謝を伝えたくて、街を再建するって……」
リーヤ「皆……」
〇〇「それに、どの工事も皆、リーヤさんに教わったって言ってました。だからそれを元に、立て直せるって」
リーヤ「そっか……そ、っか……」
リーヤさんが、声を震わせながら帽子を目深に被った。
と、次には顔を上げ、満面の笑顔になっている。
リーヤ「おい、ここ!この組み方でいいっつったかー? おいおい、そこはもっと、土を増やさねーと駄目だろ!」
あっという間に、以前のリーヤさんが戻ってきた。
手際良く指示を出し、皆を力強く先導していく。
〇〇「やっぱりこの国は、リーヤさんがリーダーでなきゃ駄目ですね」
リーヤ「っ……でも、こんな馬鹿だぞ」
街の人1「リーヤ様は、すごい人。天才……」
リーヤ「だから、ちがっーー」
街の人2「でも、失敗もする。街も壊す!」
街の人3「間違える。俺達と一緒!」
まばゆい笑みが、あっという間に皆の顔に広がっていく。
それを見たリーヤさんが、困ったように微笑んだ。
リーヤ「こいつら、ほんっと……馬鹿だよなー。俺もだけど」
きらきらと輝く太陽のような笑みが、どこまでも広がっていく。
リーヤ「俺も、一人だと思ってたけど、一人じゃなかった。 皆と一緒で、誰かを頼ったり考えたり悩んだり……するんだよな」
清々しいその笑みは、完全に心の澱を吹っ切ったかのようだ。
リーヤ「よし! 俺も、手伝うからなーっ!!」
街の人と一緒になり、リーヤさんが復興工事を始める。
(よかった……)
微笑ましい気持ちで、その様子を見つめていると…-。
リーヤ「すげー日差し……大丈夫か?」
リーヤさんが、かぶっていた帽子を私の頭にぐいと乗せた。
〇〇「は、はい、私は大丈夫です」
私も手伝っていた作業の手を止めて、リーヤさんを見た。
柔らかく清々しい視線が、私の視線を絡めとって……
リーヤ「ありがとな、〇〇」
〇〇「いえ。私はできることをしただけで……」
リーヤ「それが、すげー嬉しかった。 お前のおかげで、今がある気がするんだ」
〇〇「そんな、私は……」
リーヤ「いいから、もう謙遜とかやめろよ」
ふわりと、リーヤさんの手が私の頬に触れた。
(ドキドキして……)
速まる鼓動を抑えきれずに、頬も熱くなっていく……
リーヤ「ははっ……泥、ついてるし。こんなに、汚しちまって、さ」
リーヤさんの視線が、とても優しく細められる。
そっと、泥を拭った指先が、被せられた帽子を押さえたかと思うと…-。
〇〇「……!」
帽子に隠れた強引なキスが、落とされた。
情熱的に重なって、それからゆっくりと離れていく……
リーヤ「まだ、どこにも行かないでいてくれるだろ? これからも、俺のこと手伝って……支えてくれよ」
密やかな口づけと共に告げられた願いを断る理由などなくて……
リーヤ「いいだろ?うん、って言うまで、キス……し続けるぞ?」
〇〇「う、うん……!」
リーヤ「なんだそれ。それはそれで、傷つくだろー……!」
笑いながら、じゃれ合うように私達は……
これからの約束に、胸を熱くしていたのだった…-。
おわり。