襲撃してきたカラスどもを、撃退した後…-。
(あー……どうすっかな)
大案山子一号は、街から遠く離れた地でその動きを止めてしまった。
リーヤ「巨大案山子にしたこの城を、元の城の場所に戻すには……。 もう一度、一から作り直しだな。 しかも今度は、完璧な完全体じゃねーと、途中でまた止まっちゃ意味ねーし」
ごちゃごちゃする考えを整理するように、誰に言うでもなくそう声に出していると……
〇〇「あの……逆に、街をここへ作ってしまうっていう発想はどうでしょう」
〇〇が遠慮がちに、とんでもないことを提案してきた。
リーヤ「あ? そんな馬鹿なこと……」
即座に否定しようとしたけど、頭の中で何かがピンと閃く。
リーヤ「いや、待てよ……」
(ここなら水は豊富にあるし、案山子の高さがあればカラスの森の見張りもしやすい……)
(それに……)
俺達を助けてくれた、街の奴らの顔を見渡す。
皆、きょとんとした顔で俺の言葉を待っていた。
(こいつらと……新しいモンを作るのも、悪くねえ)
リーヤ「それも、一理あるかもしれねー!」
〇〇「本当ですか?」
〇〇の顔が、ぱっと明るくなる。
その笑顔が、俺の自信をさらに強めてくれた。
リーヤ「今の街の位置は、実は水路が不自由だったんだ。 けど、ここだったら水路の確保はなんの問題もねえし。 いっそ全部移動しちまうってのは、斬新だがアリだ」
(なんだ、この気持ち)
胸がドキドキして、走り出したいような衝動に駆られていく。
(俺は、この感覚を知ってる)
(仲間と旅してた時の……これから何が起こるんだろうって、すっげーわくわくする感じ)
どうしようもなく心が高揚して……
リーヤ「よし! 俺はここに街を作ることに決めたぞ!」
今日一番の大声で、そう宣言する。
街の奴らの驚きの声が、空にこだました…-。
…
……
それからしばらく…-。
(疲れたけど……今日も一日、楽しかったな)
街づくりも順調に進むある日、俺は〇〇と二人、案山子の屋上で夕陽を眺めていた。
橙色の光が、スケアクロウに広がる田園をどこか切なげに染め上げている。
(……でっかいなあ)
どこで見ても変わらない夕陽の姿に、自分のちっぽけさを感じてしまう。
(知恵を手に入れて……俺はたぶん、調子づいてたんだろうな)
(自分じゃないとできねーって思い込んで、周りに頼ることを忘れて)
リーヤ「夕陽は……前の街で見ても、この街で見ても、おんなじだな」
そっと、隣にいる〇〇の顔を見やる。
リーヤ「お前がいたところも、おんなじ夕陽か?」
〇〇「え……?」
〇〇は意味がわからないというように小首を傾げた。
(ハハッ……わかんねーよな。でも)
リーヤ「きっと……おんなじだろうな……」
(そうだよ。こんなでっかいもんの前じゃ、俺の存在なんて小さいもんだ)
(なんで気づかなかったんだろーな。わくわくできる方法なんて、いくらでもあったのに)
(でも、お前が気づかせてくれた……)
たまらなくなって、俺は後ろから〇〇の体を抱きすくめた。
〇〇「あ、あの……」
〇〇は声を上ずらせ、わずかに身じろぐ。
リーヤ「嫌か?」
〇〇「……」
何も言わないまま、〇〇は首を静かに左右に振った。
(へへっ……嬉しいな)
すっと、息を大きく吸い込んで……
リーヤ「お前ってさ、面白いよな!」
〇〇「え……?」
リーヤ「俺と同じくらい、いろんな種類の考えとか持ってて……。 けど、俺と違う人間だから、やっぱ考えることが違ってて……。 そういうの、面白い」
俺が何を言っているのか、〇〇はもしかしたらわからないかもしれない。
けど、俺は〇〇みたいな奴を……俺をドキドキさせてくれる奴をずっと待ち望んでいた。
(お前のおかげで、俺はまたわくわくすることができた)
(最高だよ、お前)
〇〇「あ、あの……」
〇〇の顔が、俺の方を向いて……
〇〇「……!」
軽く、唇を奪ってやる。
リーヤ「へへっ、不意打ち……!」
何も言わず頬を染める〇〇を、俺は少しきつく抱きしめ直した。
ドクン、ドクンと……俺と彼女の鼓動が、まるで音楽のように聴こえてくる。
リーヤ「トル・デ・リデ・オ~♪」
頭に過った歌を、そのまま口ずさんでみる。
仲間達ときらきらした気持ちで旅をしていた時に、よく歌ったメロディ……
(幸せ……だな)
もう二度とこの気持ちを手放したくなくて……俺は強く、〇〇を抱きしめた…-。
おわり。