カラスの大襲撃も撃退に成功した今、残された問題は…-。
リーヤ「巨大案山子にしたこの城を、元の城の場所に戻すには……。 もう一度、一から作り直しだな。 しかも今度は、完璧な完全体じゃねーと、途中でまた止まっちゃ意味ねーし」
リーヤさんが難しい顔をしながら、帽子の飾りをいじっている。
(かなり悩んでいるみたい……)
〇〇「あの……逆に、街をここへ作ってしまうっていう発想はどうでしょう」
何かヒントになればと、思いついたままのことを口にしてしまうと……
リーヤ「あ? そんな馬鹿なこと……。 いや、待てよ……」
難しい顔をしていたリーヤさんだったけれど、次第にその目に輝きが宿って……
リーヤ「それも、一理あるかもしれねー!」
〇〇「本当ですか?」
思いついたことを口にしただけの提案に乗ってくれて、嬉しさに声を弾ませる。
リーヤ「今の街の位置は、実は水路が不自由だったんだ。 けど、ここだったら水路の確保はなんの問題もねえし。 いっそ全部移動しちまうってのは、斬新だがアリだ」
街の人1「街が……移動??」
街の人2「街が二つ?」
その場にいた街の人々が、それぞれに混乱を口にし始める。
そんな中、リーヤさんがひときわ大きな声を上げた。
リーヤ「よし! 俺はここに街を作ることに決めたぞ! まずは、しっかりとした水路を確保する。 それから、このでっかい案山子を基準に、塀を作る。 今後、またカラスが来ても防ぎやすいような造りで仕上げていくんだ!」
リーヤさんの瞳に、生き生きとした輝きが満ちる。
ふと……いつだったか、リーヤさんが語ってくれた望みが思い出された。
―――――
リーヤ『もしさ……この計画が上手くいって国が守れるようになったら……。 俺、また昔みたいに旅に出たい。 昔みたいに、すげーモン探して心きらきらさせて、旅したいんだ……』
―――――
(……旅をしなくても、今、そのきらきらを手に入れてるんじゃないかな)
まばゆいほどに力強く聡明で希望に満ちた彼の瞳を見ていると、そう思わずにはいられなかった…-。
それからしばらく…-。
新しい街作りは順調に進み、リーヤさんは街の人達と以前に増して仲良くなっている。
(以前は、ただ頼られてるって感じだったけど……)
(今は、本当に仲間って感じがする)
そして今日も、街作りを終えた夕刻…-。
私はリーヤさんと二人、案山子の屋上で、肩を並べていた。
リーヤ「夕陽は……前の街で見ても、この街で見ても、おんなじだな」
少ししんみりとした声で、リーヤさんが言う。
リーヤ「お前がいたところも、おんなじ夕陽か?」
〇〇「え……?」
リーヤ「きっと……おんなじだろうな……」
後ろからそっと、包み込まれるように体を抱きすくめられた。
〇〇「あ、あの……」
リーヤ「嫌か?」
〇〇「……」
答える言葉が見つからずに、ただ静かに首を左右に振る。
(ドキドキしてるの……バレちゃいそう)
背中に、温かなぬくもりを感じる。
それがリーヤさんのものだと認識すればするほど、顔が火照っていった。
リーヤ「お前ってさ、面白いよな!」
〇〇「え……?」
リーヤ「オレと同じくらい、いろんな種類の考えとか持ってて……。 けど、俺とは違う人間だから、やっぱ考えることが違ってて……。 そういうの、面白い」
〇〇「あ、あの……」
よく言葉の意図がくみ取れずに、振り返ろうとした時だった。
〇〇「……!」
軽く、真綿のように優しく、唇が触れ合って……
驚いた拍子に、あっという間に離れていった…-。
リーヤ「へへっ、不意打ち……!」
そう言って笑った顔は、これまでのどのリーヤさんよりも子供っぽくて……
いたずらっこのようで、でも……魅力的で。
(……何も、言えない)
胸がいっぱいになって何も言えない私を、リーヤさんが少しだけきつく抱きしめる。
と……軽やかな歌声が耳をくすぐった。
リーヤ「トル・デ・リデ・オ~♪」
(楽しくて……優しい歌声)
恥ずかしいし、嬉しい気持ちをなんて言えばいいのかがわからないけれど、
(ずっと……こうしていたい)
耳元で紡がれる歌声を聞きながら、私はそんなことを思ったのだった…-。
おわり。