一人でカラス一族撃退の計画を遂行するのだというリーヤさんの、お手伝いをさせてもらうことになってから、しばらく…-。
リーヤ「おい、そこの計測器取ってくれ」
〇〇「はい」
リーヤ「あー、あとこれ、計算できる?」
〇〇「はい、やってみます……!」
リーヤさんにいろいろと教えてもらいつつ、まだまだ足手まといのようではあったけれど……
リーヤさんは、私を遠ざけようとはしなかった。
リーヤ「あー、ここの造りが0.1ミリずれるんだよなー……」
ぼやくようにリーヤさんが言う。
ばたりと仰向けに倒れ込み、いつもそうしているように帽子の飾りを指先でいじった。
(あ、リーヤさんの癖……)
考え事をする時に、リーヤさんはよくそうしている。
私はそっと、リーヤさんの邪魔にならないように、隣に寄り添った。
と、リーヤさんが体勢を変えて、私の方を向く。
リーヤ「少し、休憩だ」
柔らかな笑みに、とくんと胸が音を立てた。
リーヤ「それにしても、お前……よく頑張ってるよな」
〇〇「え……?」
リーヤ「正直、どっかで逃げ出すんじゃねーかって思ってたけど……」
〇〇「リーヤさんは、すごく優しいのに……そんなことしません」
リーヤ「俺が優しいって?お前、ちょっと頭おかしいんじゃねーのか」
そう言ってリーヤさんは、屈託なく笑う。
その笑みが、最近は特に優しく感じられて……
(一緒にいると、時々……胸が苦しい)
〇〇「でも……皆、リーヤさんを慕ってるし」
リーヤ「そりゃ、俺の脳みそを頼りにしてっからだろ」
〇〇「そんなこと……!」
リーヤ「それに、つまんねーよ」
〇〇「え……?」
リーヤ「つまんねー……俺も昔は、ない頭必死に絞って、馬鹿って言われたくなくて……。 けど、望みが叶っちまって、今、天才って言われるようになれば。 これはこれで、ちょっと寂しいっつーか……マジで、ひとりぼっちみたいじゃん……」
リーヤさんが、すっと帽子を手に取り、その顔を覆ってしまう。
リーヤ「〇〇……」
〇〇「……!」
顔を隠してしまったままのリーヤさんが、そっと私の手を握った。
(どうしよう……胸が締めつけられるみたい)
堪らずに、強くその手を握り返す。
リーヤ「もしさ……この計画が上手くいって国が守れるようになったら……。 俺、また昔みたいに旅に出たい。 昔みたいに、すげーモン探して心きらきらさせて、旅したいんだ……」
リーヤさんの切なく聞こえる告白に……
私達はそれからしばらく、黙って手を握り合っていたのだった…―。
その晩のこと…-。
今日のリーヤさんの話を思い出しながら、なかなか眠れずにいると……
カツン、と窓に何かが当たった。
(何……?)
恐る恐るベッドから下りた瞬間……
〇〇「……っ!」
激しい勢いで窓が突き破られ、いっせいにカラスが飛び込んできた。
リーヤ「〇〇っ! 大丈夫かっ!?」
音を聞いて駆けつけてくれたのか、リーヤさんが部屋に駆け込んでくる。
〇〇「リーヤさん……!」
私に群がろうとするカラスを掃い、リーヤさんはかばうように私を抱きしめた。
リーヤ「っく……! 卑怯だぞ、てめえ! どういうつもりだ!? 襲うなら、正々堂々俺を襲いやがれっ!!」
すると……
??「っふ、くくくっ。お前の女に、ちょっとしたご挨拶だよ」
カラスの大群の中から、突然、黒ずくめの男性が姿を現した。
リーヤ「は、はあっ!?こ、こいつはそんなんじゃねーよっ!」
リーヤさんは、怒っているのか、照れているのか、顔を赤くしている。
カラスの王「くくっ、カラスの王たるもの、なんだって見ておるぞ。 家臣のかわいいカラスがたくさんいるのだからな」
リーヤ「ふん……覗き見とはいい趣味じゃねーか」
カラスの王「その女が貴様の手伝いで疲れて眠り込んだ時に、貴様が顔を赤くして女の頭を撫でていたことも」
リーヤ「なっ……なななな何を言ってんだ馬鹿野郎!!」
(……えっと)
リーヤ「てめえ! マジ許さねえからな!」
一時、リーヤさんとカラスの王が、一触即発の雰囲気で睨み合う…-。
カラスの王「しかし……結果、貴様が何か企んでいる様子だということがわかったが……。 それならば我々にも考えがある」
リーヤ「なんだと?」
カラスの王「宣戦布告だ……!」
リーヤ「くそっ!待て……!!」
ばさりと渦を巻くように、カラスの大群が部屋を駆け巡る。
その羽ばたきの激しさに目を閉じると、その次には……
リーヤ「……逃げられたか」
荒らされた部屋の中には……どこにもカラスの王の姿はなかったのだった…-。