崩れ落ちていく右塔を前に、リーヤさんは重いため息を吐いていた…-。
(急に塔が崩れるなんて……何があったんだろう?)
リーヤ「あー……やっちまったー……」
リーヤさんが、気まずそうに帽子を深く被り……
それからすぐ、ばさりと顔を出して、短く深呼吸をする。
リーヤ「この分じゃ、左塔も駄目になっちまったかな……」
〇〇「あの、リーヤさん、これは……」
リーヤ「んー……巻き込んじまったし、ちゃんと説明するか」
リーヤさんは、苦笑いをすると私を自室へと連れて行ってくれた。
…
……
リーヤさんの部屋は、一風変わっていた。
頑丈そうな壁で作られた室内には、さらに上に昇る螺旋階段がある。
(何……これ)
リーヤ「そこ、勝手に登るなよ?頭へ通じる階段なんだけど、まだ開発途中だから」
〇〇「あたま……?」
リーヤ「後で話すよ……あー、その辺勝手に座っていいから」
(と、言っても……)
辺りには本や研究材料のようなものが散乱し、座る場所がない。
さらに、妙な機械もたくさんあった。
リーヤ「まあ……この部屋も、計画の一環なんだよ」
〇〇「計画?」
温かいお茶を用意してくれたリーヤさんが、カップを手渡しながら言ってくれる。
リーヤ「ああ。その計画ってのはさ。 実はこの国は、昔から因縁で、西の森のカラス一族に、よく国を荒らされてて。 俺は、それを根本からどうにかしてやろうと考えてる」
(カラス……そうか、だから目覚めた時もカラスにあんなに怒って)
(確か、執事さんも言ってたよね)
リーヤさんは心底悔しげに、唇を噛みしめる。
〇〇「どんな計画を考えているんですか?」
リーヤ「この国の奴らは、自分の脳みそで考えるってことを知らねえ。 だから俺一人で、今、この城を改造してる」
〇〇「……一人で、お城を改造?」
リーヤ「ああ、誰も頼りにならねーからさ」
〇〇「どうしてなんでしょう……」
リーヤ「あ?何がだ」
〇〇「どうして皆、リーヤさんばかりを頼ってるんでしょう……?」
リーヤ「そりゃ、昔は俺だって……」
〇〇「……?」
リーヤ「な、なんでもねー!」
私を振り切るように、リーヤさんは大きくかぶりを振った。
リーヤ「とにかく俺は一人で頑張る。 何せこの城ごと、案山子にしちまおうって算段だからな」
〇〇「え……?」
リーヤ「さっきのはちょっとした設計ミスだ。次はきっとイケる!」
〇〇「じゃ、じゃあ、頭って言ってたのは、もしかして……」
リーヤ「ああ、そこの階段は案山子の頭……見張り台に通じる階段だ!」
自信に満ち満ちた顔で、目を輝かせるリーヤさんだったけれど、思わず……
〇〇「お城を案山子だなんて、そんな馬鹿な……」
驚きすぎて、思わず口をついた言葉に…-。
リーヤ「あ!?今、お前、馬鹿っつったか!??」
〇〇「……!」
リーヤさんが突然、ひどく険しい顔になって私に詰め寄った。
その拍子に手からカップが落ち、壁に体を押しつけられる。
リーヤ「俺は馬鹿じゃねえ!」
〇〇「リ、リーヤさん……落ち着いてください!」
リーヤ「馬鹿って言われて落ち着いてられるか!!」
さらに語気荒く、リーヤさんが私に迫る。
〇〇「あのですね、リーヤさんが、馬鹿なのではなくて……。 本当にそんなことができるなんて、ってびっくりして……」
リーヤ「……つまり、馬鹿ってのは、言葉のあやか」
リーヤさんの鬼気迫る様子に、首を縦に何回も振ってしまう。
吐息もかかりそうな距離とその剣幕に、鼓動が速まっていた。
リーヤ「……じゃあ、許してやる」
〇〇「……ごめんなさい、リーヤさん」
リーヤ「……」
リーヤさんは、ゆっくりと私を解放すると、視線を逸らした。
気まずそうに瞳を揺らし、それから完全に背を向けてしまう。
〇〇「リーヤさん……?」
リーヤ「わりぃな……昔、オズワルドに知性をもらうまでは、本当に……その、俺、馬鹿だったし。 そんな自分がすっげー嫌だったから……あーっ、今の、忘れてくれ! それと……許してくれ。ちょっと、乱暴した。怖かったよな……?」
リーヤさんが目を伏せたまま、落ちたカップを拾い上げる。
〇〇「……大丈夫です。私も、言い方が悪かったから……」
リーヤ「じゃあ許すのか?」
〇〇「私のことも、許してください」
リーヤ「なんだよ、それ……」
リーヤさんが困ったような笑みで、顔を上げた。
その後、気を取り直して……
リーヤ「とにかく、この城を案山子にする計画も、おそらくあと少しで完成だ。 あいつら、ちょっとやそっとじゃ諦めてくれなさそーだからな。 この城を案山子にして、あいつらの嫌がるモンをたんまり仕込んでやる」
〇〇「……でも、本当にたった一人でするんですか?」
リーヤ「ああ、そうだ」
〇〇「その……私、お手伝いしちゃ駄目ですか?」
リーヤ「あ……?何言ってんだよ、できるわけねーだろ!」
〇〇「リーヤさんのように賢くはないかもしれないけど、お手伝いなら……」
リーヤ「じゃあ、何ができるってんだ?」
リーヤさんの瞳が、興味深そうに私の顔を覗き込む。
知的な瞳は、私の能力を簡単に見透かしてしまいそうで……
(で、でも、頑張ればきっと……!)
〇〇「書類の整理とか、あ、あと、疲れた時にマッサージとか……です」
(な、情けないけど……)
不甲斐なく思いながらも、リーヤさんの反応を待っていると……
リーヤ「ふっ……ははははっ! おもしれー奴! 何か新鮮だな!そうやって自分の頭で考えてくる反応。 すげーイイ!!」
〇〇「あ、あの……」
リーヤ「よし、採用だ!ま、俺の頭についてこれるよう頑張れよな!」
ぽんっと頭を撫でる手のひらが、とても優しく感じられたのだった…-。