眠りから目覚め、久々に街に現れたリーヤさんは、人々に大人気だった。
どこからともなく大勢の人々が現れ、リーヤ様、リーヤ様と頼りにされていたのだ。
(リーヤさんを目覚めさせることができて、本当によかった)
私の手を強く引いて歩くリーヤさんの背中を見ながら、進んでいると…-。
城へ入り、中庭に差しかかったところで、前方から慌てた様子で駆けてくる人影が目に止まった。
??「リ、リーヤ様―っ……!」
あたふたと駆け寄ってきたのは、初老の男性だった。
それを見たリーヤさんが、私の手をぐっと引き前に押し出す。
リーヤ「執事。俺の客人だ」
執事「あ、ああ、リーヤ様……リーヤ様、よくぞご無事で……!」
執事さんは、リーヤさんの前に出された私には気にも留めず、彼を崇めるように、目を潤ませて喜んでいる。
リーヤ「おい、執事。聞いてんのか!?」
執事「聞いていますとも!リーヤ様、お帰りなさいませ。 皆々の者、リーヤ様のお帰りを首をながーくして……」
リーヤ「聞いてねえじゃねーかっ!いいか、こいつは俺の客人、だ!!」
執事「ほう……」
リーヤさんが、大きな声で一語一句丁寧に言う。
執事さんは、目を皿のようにして私をじっと見た。
(な、なんだか居心地が悪いような……)
リーヤ「いいか、執事。俺の客人ということは、つまりわかっているな? 丁重にもてなすんだぞ。俺を目覚めさせてくれた、トロイメアの姫だ」
執事「おお! それはそれは……あの、それで、どのようにして丁重に?」
リーヤ「はぁ……いいか、よく聞けよ?大事な客人だったら、右塔の最上階の部屋へ案内だろ!? それから、上等の茶菓子に、美味しい紅茶の用意だ。わかったな!?」
執事「かしこまりました、リーヤ様」
執事さんは、リーヤさんに事細かに指示を受けて満足そうに頷く。
その様子に、私は先ほどの街の人達の様子を思い出す。
(リーヤさん……なんだか大変そうだな……)
リーヤ「取り急ぎ、やらなきゃなんねーことがあるから、俺は部屋に戻るけど。 何か欲しいものとか不便なこととかあったら、なんでもこいつに言えよな」
そう言いながら、リーヤさんがくいと執事さんを指差す。
〇〇「あの、リーヤさんはこれから何をするんですか?」
リーヤ「ちょっと、どうしてもしなきゃなんねーことがあってさ。 落ち着いたら、お前の願いなんでも聞いてやるから待っててくれよ」
〇〇「……!」
(そ、そういうつもりじゃなかったんだけどな……)
優しくて頼りがいのある笑みで言われて、心が揺れる。
皆がリーヤさんを頼りたくなる気持ちが、少しだけわかるような気がした。
それからリーヤさんと別れ、私は執事さんに右塔の客室へと案内してもらった…-。
…
……
しばらく過ごすことになったお客様用の立派な部屋で、執事さんの淹れてくれたおいしい紅茶とお菓子を楽しんでいると…-。
執事「この度は、リーヤ様をお救いくださり本当にありがとうございました」
執事さんが、かしこまった様子で頭を下げた。
〇〇「いえ、目覚めさせることができてよかったです」
執事「本当に……リーヤ様は、我々にとって、とてもとても大切なお方なのです…-」
執事さんはそれから、リーヤさんがどれだけすごいかを語ってくれた。
昔、リーヤさんが知恵をもらうため、オズワルドさんを捜して旅をしていたこと。
(旅人は……なんだか似合っている気がする)
結果、オズワルドさんと巡り合い、無事知恵を与えてもらい……
その知恵より、西の森のカラス一族の嫌がらせから、なんとか守られていること。
執事「リーヤ様は天才なのです! あの方がいなくなってしまえば、この国はもうおしまいです!」
執事さんが必死にリーヤさんを褒め称えるのを聞きながら……
街の人達も皆口々に、リーヤさんが天才だと言っていたことを思い出す。
(けど……これだけたくさんの人から頼られてばかりだと、大変だろうな)
盛大なため息を吐くリーヤさんの姿を思い描いた、その時…-。
〇〇「……!?」
大きな爆発音のようなものと共に、部屋が激しく縦揺れを起こした。
(な、何……!?)
すると次には、部屋に勢いよく飛び込んでくる人影が……
リーヤ「大丈夫かっ!?」
執事「リ、リーヤ様、これは……!」
リーヤ「話は後だ!わりぃ、こっからすぐ出てくれ!」
〇〇「は、はい」
その瞬間……
〇〇「……っ!」
再度起きた揺れに、倒れる本棚から危機一髪……
リーヤさんは私の腕を引き、かばうように抱き寄せた。
リーヤ「来い……!」
ぐっと私を抱き寄せるリーヤさんの腕の力が強くなる。
見せる横顔は真剣そのもので、私は……
〇〇「……」
何も言えずに、黙ってリーヤさんに身を任せる。
リーヤ「大丈夫だからな!」
黙りこくってしまった私を案じてか、リーヤさんが力強く言ってくれた。
それから私達は、なんとか崩れ落ちる右塔から逃げ延びたのだった…-。