人のいない静かな海辺で、波音だけが響いている…-。
子ども達の卒業を見送ったその日、オレは海へと足を運んでいた。
陽影「……」
(海は、いいな……)
大木に座って波音を聞いていると、海が自分を慰めてくれているような気がした。
(もう何回も経験してきたっつーのに……)
(やっぱ、寂しいもんだな)
それから海を見続けて、しばらく…-。
〇〇「陽影さん」
陽影「……〇〇」
名前を呼ぶ声に振り向くと、〇〇がこちらに向かって歩いてくる姿が見えた。
(どうしたんだ……?)
なんて言葉をかけていいかわからず、再び海を見つめる。
〇〇「隣に座ってもいいですか?」
陽影「そんなの、断らなくていいって。座れよ」
〇〇の腕を引き、隣に座らせる。
陽影「少し海が見たくなってな」
〇〇「陽影さん……」
悲しげな声が聞こえ振り向くと、〇〇が気遣わしげにオレを見つめていた。
陽影「そんな顔すんなよ」
〇〇「え……?」
陽影「オマエの方が泣きそうな顔してんじゃねーか」
〇〇「っ……!」
(オマエに……そんな顔させたいワケじゃないんだ)
彼女の額を軽く弾き、オレは笑ってみせる。
陽影「わかってんだ。毎年こうやって学校に上がっていくんだから。 別にこれで一生お別れってわけじゃねーし」
〇〇「はい……」
陽影「けどな。明日から先生先生ってまとわりついて来るヤツらがいなくなるって思うと、なんとも……。 毎回毎回、そのたびに寂しくなってるなんて、オレも進歩ねーな」
〇〇「……寂しいのは当たり前です」
(……っ!)
〇〇「だって陽影さんは、あの子達に一生懸命接していましたから……」
陽影「〇〇……」
〇〇の言葉が、胸に沁み込んでいく。
(……無理、しなくてもいいのかもな)
そう考えたら、心が少し軽くなった気がした。
(あー……)
全身から力がゆっくりと抜けていって……
傾けた頭を、〇〇の肩に預けた。
〇〇「っ……」
陽影「悪い、少しだけ肩貸してくれ」
〇〇「はい……」
浜辺に聞こえてくるのは、相変わらず寄せては返す波音だけ……
陽影「柄じゃねえよな……けど、やっぱちょっと寂しくて。 なんつーか、こんなカッコ悪いところは見せたくなかったんだけど。 〇〇、オマエすげーな。オレのことなんてお見通しみたいに気づくんだから」
(不思議なモンだな……肩を借りてると……)
(気持ちも半分、預けてるような気分だ)
〇〇「そう……ですか?」
陽影「おかげでこんな姿も隠せねーっての」
すると……
(あ……)
優しい手つきで、〇〇がオレの髪を撫でる。
(……気持ちいいな)
陽影「……」
心地よさに身を委ね、ただ〇〇の手の感覚を追っていると……
〇〇「あ、すみません……」
(あっ……!)
離れていこうとする〇〇の手を掴み、頭の上に戻す。
陽影「オマエの手、あったかくて気持ちいいな」
彼女の手のひらの熱が、オレの寂しさを和らげていく。
(〇〇がいてくれてよかった)
〇〇「陽影さん……」
陽影「しばらく、そうしといてくれねーか?」
〇〇「はい……」
(ずっと、こうしていたい)
(来年も、この先も、ずっといつまでも)
寂しさはやがて、〇〇への想いとなってオレの胸を切なく締めつけていた。
(オレはオマエと一緒にいたい)
確かなその気持ちを〇〇に伝えたくて、オレは小さく口を開いた…‐。
おわり。