子ども達と過ごす、最後の日…-。
数時間前まであんなに賑やかな声が響いていたこの場所も、今は随分と静かになってしまった。
気を取り直すように、隣にいる〇〇に話しかける。
陽影「それにしても、本当に悪かったな。せっかくオマエが来てくれたってのに全然構ってやれなくて……」
〇〇「え……?」
陽影「しばらくゆっくりできるし、なんだって聞いてやるよ!」
〇〇「っ……!」
(やべっ……!強すぎたか!?)
癖で背中を叩いてしまい、前のめりになった〇〇を慌てて支える。
陽影「ああ、悪い!……女ってのは子どもより扱いが難しいな」
〇〇「大丈夫ですよ。ちょっと驚いただけですから」
陽影「そうか?まあ、考えてみりゃオマエもアイツらと一緒に走り回ってたし、そんなにヤワじゃねーか!」
〇〇「はい!」
元気に答える〇〇の声は、気持ちがいい。
(心配ないって、伝わったみたいだな……)
陽影「オマエとアイツらが楽しそうにしてんのを見るのは悪くなかった。 〇〇と一緒になったら、こんなふうに毎日楽しんだろうなって思えてさ」
〇〇「え……?」
陽影「言うこと聞かない子どもを追っかけて、二人で仕方ないなって笑い合うんだよ。 なんか、すっげー楽しそうじゃねーか?」
〇〇「そうですね」
(やっぱり、そうだよな!)
〇〇が頷いてくれたことが嬉しくて、思わず顔を見ると……
その頬がほんのりと赤くなっていることに気づいた。
(〇〇……)
〇〇の顔を見つめていると、言葉に言い表せない感情が生まれてくる。
陽影「オマエさ……」
〇〇「は、はい……」
陽影「その、なんつーか……」
(なんて、言えばいいんだ……?)
(オレは、コイツと…-)
答えがぼんやりと頭に浮かんできた、その時…-。
子ども達「陽影せんせーい!」
〇〇「え……?」
さっき見送った子ども達が、走って戻ってくる。
陽影「なっ、なんだよオマエら! 帰ったんじゃねーのか!?」
形になろうとしていた言葉が行き先をなくし、オレはとにかく焦った。
(ああもう、どうすりゃいいんだ!)
戸惑うオレには構わず、子ども達の賑やかさはさらに増して…-。
男の子1「やっぱり陽影せんせいと〇〇せんせいはお似合いだね~」
女の子2「うん、お似合い~♪」
陽影「なっ……!」
(コイツら……わざとじゃねえだろうな!?)
さらにうろたえながらも、オレは子ども達に必死になって言葉を返す。
陽影「違うって!オレ達はそんなんじゃ……つーか、前にも言っただろ!?」
女の子1「え~?本当に?」
陽影「本当だって!まだ違うんだよ!」
〇〇「まだ……?」
陽影「えっ?……あっ!」
(やべえ!)
慌てて口を塞いでも、もう言葉にしてしまったからには遅く……
陽影「いや……その……」
目をしばたかせて〇〇がオレを見ている。
(っ、くそ! ジタバタしたって仕方ねえ。腹くくれ!)
決心して、顔を上げ思いきり腹から声を出す。
陽影「いつかは、そうなったらいいなとは思ってる!」
〇〇「っ……!」
陽影「飛躍し過ぎだってのはわかってんだけど。 さっき言いかけたのはそのことだ」
(顔が熱い……ぜってー赤いだろうな……)
〇〇「あの、私……」
胸の鼓動が速まり、うるさいくらいに脈を打っている。
〇〇「私は……」
陽影「あー、待て!返事は今すぐじゃなくていい!」
(ま、まだ、心の準備が……!それに)
小さく息を吐いて、オレは自分を落ち着かせた。
(……勢いで言っちまったけど、真剣なんだよ。だから……)
陽影「そうだな……桜が満開に咲くくらいまで。 オレ、待ってるからさ。だから、ちゃんと考えて欲しいっつーか……。 できればその時は、いい返事だと嬉しい!」
〇〇「陽影さん……」
暖かい風が流れ、もうすぐそこまで春がやってきている。
ほんの少し先の未来を思って、オレ達二人は小さく笑い合った…-。
おわり。