陽影さんと一緒に子ども達を送り出し、陽だまりのような賑やかな声が遠ざかった後…-。
〇〇「寂しいですか?」
陽影「まぁ、少しはな。 でも今は、アイツらが無事に巣立ってくれて誇らしいって気持ちでいっぱいだ」
陽影さんは腕を組むと、満足そうに笑う。
陽影「それにしても、本当に悪かったな。せっかくオマエが来てくれたってのに全然構ってやれなくて……」
〇〇「え……?」
陽影「しばらくゆっくりできるし、なんだって聞いてやるよ!」
〇〇「っ……!」
陽影さんに背中を叩かれ、体が前のめりになる。
陽影「ああ、悪い! ……女ってのは子どもより扱いが難しいな」
〇〇「大丈夫ですよ。ちょっと驚いただけですから」
陽影「そうか?まあ、考えてみりゃオマエもアイツらと一緒に走り回ってたし、そんなにヤワじゃねーか!」
〇〇「はい!」
(鬼ごっこ、楽しかったな……)
子ども達と過ごした時のことを思うと、自然と笑みがこぼれる。
すると……
陽影「オマエとアイツらが楽しそうにしてんのを見るのは悪くなかった。 〇〇と一緒になったら、こんなふうに毎日楽しんだろうって思えてさ」
〇〇「え……?」
驚く私の瞳を覗き込んだ後、陽影さんは目を細めた。
陽影「言うこと聞かない子どもを追っかけて、二人で仕方ないなって笑い合うんだよ。 なんか、すっげー楽しそうじゃねーか?」
〇〇「そうですね」
(だけど、私と陽影さんが家族だなんて……)
意識するほどに、胸が高鳴って顔が熱くなっていく。
そんな私を、陽影さんがじっと見つめ……
陽影「オマエさ……」
〇〇「は、はい……」
陽影「その、なんつーか……」
陽影さんが私の肩をぐっと掴み、顔を赤らめながらも懸命に言葉を紡ごうとする。
その時だった。
子ども達「陽影せんせーい!」
〇〇「え……?」
さっき帰ったはずの子ども達が、私達の方へと駆けて来る。
陽影「なっ、なんだよオマエら! 帰ったんじゃねーのか!?」
男の子1「みんなで決めたんだ!今度は、ぼく達がせんせい達におれいをするって!」
陽影「お礼?いいって、そんなの!」
男の子2「だめだよ! ぼく達決めたんだから!」
陽影「いや、でも……」
〇〇「皆、陽影先生が大好きなんですよ」
私はそう言って、戸惑う陽影さんの背中をそっと押す。
陽影「そう言われて悪い気はしねーけどさ。だからって……」
〇〇「せっかく皆が来てくれたんですから。ね?」
陽影さんの背中に手を添えながら、私はなおも戸惑う彼に微笑みかけた。
すると……
男の子1「やっぱり陽影せんせいと〇〇せんせいはお似合いだね~」
女の子2「うん、お似合い~♪」
陽影「なっ……!」
男の子2「いいな~。ぼくも〇〇せんせいと結婚したーい!」
女の子1「陽影せんせい、なんて言ってぷろぽーずしたの~?」
陽影さんの周りに集まる子ども達が、無邪気にはやし立てる。
陽影「違うって! オレ達はそんなじゃ……つーか、前にも言っただろ!?」
(違う、か……)
陽影さんの言葉に、なぜか心がちくりと痛む。
けれど……
女の子1「え~? 本当に?」
陽影「本当だって!まだ違うんだよ!」
(え……?)
〇〇「まだ……?」
陽影「えっ?……あっ!」
私が問いかけると、彼は慌てて口を手で覆った。
陽影「いや……その……。 いつかは、そうなったらいいなとは思ってる!」
〇〇「っ……!」
陽影「飛躍し過ぎだってのはわかってんだけど。 さっき言いかけたのはそのことだ」
陽影さんが顔を真っ赤にしながら、私を見下ろす。
〇〇「あの、私……」
(嬉しい……)
彼への想いが胸の中でどんどん大きくなっていく。
〇〇「私は……」
陽影「あー、待て!返事は今すぐじゃなくていい! そうだな……桜が満開に咲くくらいまで。 オレ、待ってるからさ。だから、ちゃんと考えて欲しいっつーか……。 できればその時は、いい返事だと嬉しい!」
〇〇「陽影さん……」
ふと桜を見上げると、固かった蕾はわずかにほころび始めている。
(本当は、考えるまでもないけど……)
そう思いながらも、私は陽影さんにしっかりと頷き……
もうすぐやってくるであろうその日に、思いを馳せたのだった…-。
おわり。