陽影さんや子ども達と過ごしてから、しばらく経ったある日の朝…-。
廊下を歩いていると、家臣の方と難しい顔で話している陽影さんの姿を見つけた。
(どうしたんだろう……?)
陽影「やっぱり難しいか……」
家臣「はい。そのようです」
陽影「仕方ない。何か他を探そう」
家臣の方が陽影さんにお辞儀をして立ち去る。
(何か問題でもあったのかな……?)
〇〇「陽影さん、あの……」
陽影「〇〇?」
難しい顔をして考え込んでいた陽影さんが、驚いたように目を見開いた。
陽影「もしかして今の話……聞こえちまったのか?」
〇〇「いえ、全部は……」
陽影「……そうか」
〇〇「あの、何かあったんですか?」
なおも難しい表情を浮かべる陽影さんに、私は思い切って尋ねる。
陽影「ああ……今年は桜が咲くのが遅いって言っただろ? それ自体は、そう悪いことじゃねーんだ。凍哉が頑張ってるってことだからな」
〇〇「凍哉……さん?」
陽影「ああ、冬を司る王子だ。今年は訳あって、アイツが頑張っててな。 でも……。 アイツらの卒業は、できれば満開の桜の木の下で祝いたかったな」
(桜……そっか……)
外は冷たい風が吹き、桜の木の蕾はまだ小さく固い。
陽影「つっても、こればっかりは仕方ねーし。何か考えるさ」
口元に笑みを浮かべているものの、彼の瞳は寂しさを含んでいるように見える。
(陽影さん、こんなに子ども達のことを考えているのに……)
(何か私も力になれたら……)
〇〇「……私も考えます。 絶対にいい方法があると思いますから、一緒に考えましょう!」
彼の力になりたいと願った次の瞬間、自然と言葉が口をついていた。
陽影「〇〇……」
(陽影さんと子ども達のために、私ができること……)
記憶の糸を必死に手繰り寄せ、最善の方法を考える。
すると……
(そうだ……あの紙の花……)
〇〇「陽影さん、あの……」
陽影「え……?」
私は、彼に元いた世界で作った紙の花のことを話す。
…
……
そうして、少しの後…―。
陽影さんの部屋に材料を用意してもらうと、私はさっそく紙の花を作り始めた。
陽影「へぇ、本当に花の形をしてる。こいつはすごいな」
陽影さんは私の手元に咲いた花を見つめて、瞳をきらきらと輝かせる。
〇〇「これを枝につけたら、桜が咲いたように見えませんか?」
陽影「えっ……?」
私の言葉に、陽影さんは驚いたように目を見開き……
〇〇「笑わなくても……」
陽影「いや……ゴメン! 悪気はねーんだ! ただ、あんまりにも目を輝かせてオレを見るから! オマエといると元気になるなって思って!」
〇〇「え……?」
陽影「いいな、これ。いっぱい作って木に飾ってやろうぜ!」
〇〇「はい……!」
陽影「〇〇、ありがとな。オマエが来てくれてよかった」
陽影さんが私の頭を撫でながら、嬉しそうに笑う。
その笑顔は、まるでそこに花が咲いたように鮮やかだった…-。