次の日、私は陽影さんに連れられ、子ども達が待つ広場へとやって来た。
陽影「新しい先生の〇〇だ!」
〇〇「よ……よろしくお願いします」
少し緊張しながら、私は子ども達にお辞儀をした。
そんな私の緊張を吹き飛ばすように、彼らは私の元へと駆け寄って来る。
男の子1「女のせんせいだ!」
女の子1「いっしょに来たってことは、もしかして陽影せんせいのお嫁さん?」
〇〇「え……?」
男の子2「ってことは……先生は王子さまだから、お妃さまだ!」
(お妃……さま?)
突然そう呼ばれ、私の頬がひどく熱くなる。
陽影「なっ……何言ってんだ!?」
陽影さんは耳まで真っ赤になり、その声は少し裏返っていた。
女の子2「せんせいが赤くなってる!」
陽影「こら! 先生をからかうんじゃねーよ!」
子ども達「お妃さま! お妃さま!」
陽影「だから違うって言ってんだろ!」
彼が大声を出せば出すほど、子ども達は楽しそうに笑う。
囃し立てる子ども達を前に、どうしていいかわからなくなっていると…-。
女の子1「〇〇せんせいも、いっしょに逃げよう?」
(え……?)
女の子が私の手を引き走り出す。
すると、他の子ども達も陽影さんの周りから逃げ出した。
陽影「おい! いつから鬼ごっこになったんだ!?」
陽影さんの驚いたような声が後ろから聞こえる。
けれど、それはすぐに楽しそうな声へと変わり……
陽影「ほらほら、早く逃げねーと捕まっちまうぞ!」
子ども達に向ける彼の笑顔は本当に明るく楽しそうだった。
それを見た私は……
〇〇「ここまでおいで……!」
陽影「なっ……! ちくしょう、そこで待ってろよ!」
陽影さんは次々に子ども達を捕まえていく。
そしてついに……
陽影「〇〇も捕まえた!」
〇〇「っ……!」
彼の熱い息が耳に当たり、私の胸が大きく音を立てる。
陽影「ん?何赤くなって……あっ! 悪い!オレ、つい……」
〇〇「い、いえ……」
慌てたように私から手を離した後、陽影さんは顔を真っ赤にしながら頭を下げた。
陽影「本当にゴメンな。アイツらとはしゃいでると、どうも感覚が…-」
男の子1「せんせい、どうしたの?」
陽影「えっ? あ……」
男の子から急に声をかけられた陽影さんは、はっとしたような表情を浮かべる。
陽影「い、いや、なんでもねーよ! それよりも、鬼ごっこは終わりにして木登りの練習をするぞ! 昨日のを見てオマエ達に教えとかねーとと思ってな。 一番に登りたいヤツはいるか?」
男の子1「はーい!」
男の子2「はい! はい!」
陽影「ハハッ、いい返事だな! んじゃ、最初に手を上げたオマエからな」
陽影さんに頭を撫でられた男の子が、木に登ろうと奮闘し始め……
彼が落ちて怪我をしないよう、陽影さんは傍で注意深く見つめていた。
…
……
そうして、しばらく……
(あれ……?)
木登りを終えた子ども達を見つめる陽影さんの瞳が、ほんの少し陰ったように見える。
(どうしたんだろう。何か、寂しそう……?)
〇〇「どうしたんですか?」
陽影「ん? 何がだ?」
〇〇「いえ……」
言い淀む私に、彼は少し決まりが悪そうに口を開く。
陽影「……なんかオレ、変な顔でもしてたか?」
〇〇「いえ……その、少し寂しそうに見えたので、どうしたのかと思って……」
陽影「そうか……」
そうつぶやくと、陽影さんはくしゃりと自身の髪を掻き上げる。
陽影「その……もうすぐ春だろ?」
〇〇「はい……」
陽影「そうしたらアイツらともお別れかと思うと、なんだかな……」
〇〇「え?」
陽影さんの眉が下がり、瞳が切なげに揺れた。
陽影「一応、この国には学校があるからな。オレはそれまでの遊び相手兼先生ってわけだ。 だから……もうすぐアイツらはオレのところから卒業だ」
陽影さんはそう言って、子ども達を見つめる。
口元に笑みを浮かべていても、彼の表情は寂しさを含んでいるように見えた…-。