ピアノの旋律が、切なく室内に響いている…―。
ジェイ「ああ、いや……君をもてなしたいと思って声をかけたつもりだったんだ。だけど、俺は…―」
どこか悲しげな色を瞳に湛えながら、ジェイさんが、言葉を続ける。
ジェイ「俺は……自分が寂しかったのに、それを素直に君に言えずにいて……」
整った美しい指でグラスを軽く揺らしながら、ジェイさんは静かに微笑む。
ジェイ「短い時間ではあるけど、君と同じ時間を過ごすことができて、幸せだった。 本当に、ありがとう」
私の頬に触れていた手のひらが、そっと離れていく。
(ジェイさん……)
なんて言葉をかけたらいいのかと、考えあぐねていると……
ジェイ「……そろそろ、お開きにしようか」
つぶやきにも似た小さな声で、ジェイさんはそう言った。
(でも、やっぱり寂しそうな目をしてる……)
ジェイさんとは、夜の間しか一緒に過ごすことはできない。
私が部屋に戻り、眠りに就いた後……一人きりで静かな時間を過ごし続けるジェイさんを想像する。
(胸が痛い……)
ジェイ「さあ、行こう」
○○「あ……」
私が口を開いた時には、もう遅く……
立ち上がったジェイさんに声をかけそびれたまま、私は彼の後を追うことしかできなかった…―。
バーを出て、エレベーターホールまでやってきた時…―。
ジェイ「……」
先ほどから無言のまま、ジェイさんは歩き続けていたけれど…―。
ジェイ「……何か、言いたそうな顔だね?」
○○「え? あ、その……」
突然そう尋ねられ、胸がドキリと跳ねる。
(ジェイさんに、伝えたい)
(もっと、一緒にいたいって……)
○○「あの…―」
言いかけた私を、ジェイさんの言葉が再び遮った。
ジェイ「いや……言わなければならないのは、俺の方かな」
形のいい唇が、ゆっくりとそう言葉を紡いだ…―。