バーカウンターに腰を下ろすと、眼前には美しい夜景が広がっていた。
まだ街の眠りは浅いのか、あちらこちらに明かりが灯って星空のように瞬いている。
○○「窓が広いんですね。とても綺麗……」
ジェイ「まるで天空の城だろう? この眺めも気に入っているんだ」
少し得意げに説明するジェイさんの元に、店のマスターがやってくる。
マスター「ようこそ。何をお作りいたしましょう?」
ジェイ「そうだな……こちらのプリンセスに、とっておきを」
ジェイさんが甘い声で告げた言葉に、マスターは恭しく頭を下げる。
グラスを取り出すと、手早くカクテルを作ってくれた。
ジェイ「ミモザか……」
私の前に置かれたグラスを見て、ジェイさんがつぶやく。
(ミモザって、花の……?)
マスター「こちらのカクテルの名前です。王子にも、こちらを……」
ジェイさんの前にも、同じグラスが置かれる。
淡いオレンジ色のカクテルが入ったグラスを、私達は手に取った。
ジェイ「では、今夜の再会を祝して……乾杯」
カチン、と二つのグラスが交わる。
一口含むと、甘い香りが口内に広がった。
(飲みやすい……)
思わず頬を緩めた私を、ジェイさんが見つめる。
ジェイ「どうかな、味は?」
○○「とても飲みやすいです。おいしい……」
ジェイ「そう、ならよかった。好きなだけ飲むといいよ」
○○「ふふ……酔わないように気をつけますね」
ジェイさんもグラスを口に運び、口角を上げる。
ジェイ「これは、特別なワインを?」
マスター「ジェイ王子はワインを嗜まれると聞いておりますので、ノープリーのスパークリングでご用意しました」
○○「……ジェイさんをご存じなんですか?」
マスター「ええ。先日のプリンスアワードのパーティで、バーテンダーとして出席させていただきましたので」
ジェイ「それで、彼女へのカクテルもぴったりなものが出てきたのか……さすがだね」
満足そうなジェイさんの笑みを見て、マスターは一礼し、その場を去って行った。
ジェイ「……いい店だな。 大切に使われてきたバーカウンター、並んだボトル、照明に音楽……。 どれもマスターのこだわりが感じられる」
○○「はい。とても素敵なお店で、居心地もよくて……」
そう告げる私の頬を、ジェイさんがそっと撫でる。
ジェイ「君と来られてよかったよ。一人で過ごすにはもったいない店だ」
○○「そんな……こちらこそ、素敵なお店に連れて来てくださってありがとうございます」
優しい手が、私の頬を撫でる。
○○「……ジェイさん?」
ジェイ「ああ、いや……君をもてなしたいと思って声をかけたつもりだったんだ。だけど、俺は…―」
ジェイさんが言葉を濁す。
その瞳に、どこか悲しげな色が見えた気がした…―。