パーティホールに、少年達の歌声が響き渡っている。
歌声が静寂に飲み込まれた瞬間、割れんばかりの拍手が会場を包み込んだ。
○○を横目で見ると、満面の笑みで拍手を送っている。
○○「素晴らしい合唱でしたね」
キース「……まあ、教えには忠実だった」
俺は、自然と笑みをこぼしてしまっていた。
少年達が俺の足元に駆け寄って来る。
少年1「鬼先生! どうだった?」
少年2「しっかり歌えたでしょ?」
緩んでいた口元を、意識的に引きしめる。
キース「立派に退場するまでが、お前達の仕事だろう。 仕事はきちんと最後までしろ」
少年達「はーい!」
少年達は大きな声で返事をした後、会場を退場していく。
○○「子ども達も、いい顔していますね」
キース「ああ」
(さて……)
嬉しそうに少年達を見送る彼女の手を、そっと取った。
○○「あの。 キースさん、どちらへ?」
キース「あいつらの合唱も見たし、もういいだろう」
○○「え、だって、プリンスアワードはこれから……」
キース「……だからなんだ?」
冷たく返事をすると、彼女はそれ以上何も言うことはなかった。
(お前の言いたいことぐらいわかっている)
(だが……)
次第に、人々の歓声が遠くなっていった…―。
中庭はライトアップされ、木々が鮮やかに映し出されている。
どこまでも広がる星空を、ゆっくりと見上げた。
○○「出てきてしまって、よかったんですか?」
キース「不満か?」
○○「え……」
俺の言葉に、彼女の瞳が揺れる。
(少し、きつかったか)
心の中でため息を吐いて、俺は再び深く息を吸った。
キース「俺は、二人きりがいいと言っているのだが」
○○「キースさん……」
俺と目が合うと、彼女は勢いよくうつむいた。
(またそうやって……)
冷たい風が、彼女の髪を揺らす。
気づくと、彼女の顎に揺れていた。
キース「お前はいつも目を伏せる。 言いたいことがあるなら、はっきり言ったらどうだ」
そんな言葉を吐きながら、それは自分の方だと胸の内で思う。
(お前の気持ちを、お前の口から聞かせてほしい)
自分の小賢しさを疎ましく感じながらも、彼女の小さな唇をそっと撫でた。
彼女の頬が紅潮し、小さく口を開いた。
○○「……プリンスアワードには、やっぱり興味がないんですか……?」
彼女の想いは、もう充分わかっていたが……
キース「何がだ。それでは何も伝わらない」
なおも俺は、彼女の口から言葉を求めようとする。
○○「キースさんは、こんなに素敵な王子様なのに」
少し不満そうに俺を見つめながらも、○○はしっかりとそう言った。
キース「……」
(……ああ)
欲しかった言葉を受けて、安堵のため息を漏らしてしまう。
キース「うるさい奴だ……わかっている」
○○「じゃあ……!」
キース「だが、今はお前と二人でいたい」
○○「……っ」
今度は、噓偽りのない思いで、彼女のことをまっすぐに見つめる。
キース「いいだろう? ……子どもの相手ばかりして、ろくにお前を構えなかったからな」
○○「……私も」
またしても、○○が消え入りそうな声を出す。
キース「聞こえない」
(もっと……お前の声が聞きたい)
俺に急かされた○○は、小さく息を吸った。
○○「私、もっとキースさんとお話がしたいと思っていました。 もっと、近づきたいと……。 だから、二人きりで過ごせて、すごく嬉しいです」
言い知れぬ感情が沸き上がり、俺は彼女の髪を撫でる。
(格別だな……)
喜びが胸に溢れ、それを隠すことはもうできなかった。
キース「素直な女は、嫌いじゃない」
俺を見上げる彼女の瞳に、いくつもの星が映り込んでいた…―。
おわり。