重圧感のあるシャンデリアが、高い天井から私達を見下ろしている。
豪華絢爛なパーティ会場で、私はしばらく立ち尽くしてしまった。
〇〇「……っ!」
誰かとぶつかりそうになり、よろけた私をキースさんの腕が支える。
キース「……何をしている」
〇〇「ご、ごめんなさい」
差し出されたキースさんの腕に、私は慌てて手を添えた。
キースさんは、私の歩調に合わせゆっくりと進みながらも、うまく人混みの間を縫うように進んでいく。
会場の奥へと歩いていくと、緊張した面持ちの少年達がステージへと上がっていくのが見えた。
〇〇「あれは……」
―――――
少年1「鬼先生、今日はどうもありがとうございました!」
少年2「鬼先生、また指揮してね!」
―――――
(合唱をしていた子ども達……!)
キース「さあ、しっかり見届けてやるか」
キースさんを見上げると、口元を緩めて少年達を見つめている。
すると、少年達はキースさんや私に気づいたようで顔を見合わせて笑い合った。
こちらに向って小さく手を振る少年達を見たキースさんは……
キース「あいつら……舞台に立ったら集中しろと言っているのに」
〇〇「きっと、キースさんの姿が見られて嬉しいんですよ」
ため息をついているキースさんだけれど、その顔はどこか嬉しそうに見えた。
(なんだか微笑ましいな……)
キース「何を笑っている」
すぐに、鋭い視線が私に突き刺さる。
〇〇「い、いえ。なんでもありません」
その時…-。
指揮者が高く腕を上げた。
〇〇「なんだか、どきどきします……」
会場が静まり返り、高鳴る胸をそっと押さえる。
オーケストラの演奏が始まり、少年達はいっせいに口を開いた。
歌声が高らかに、会場に響き渡る。
〇〇「すごい……」
キース「ああ」
〇〇「皆、あんなに一生懸命に……」
私はすっかり、少年達の歌声に魅了されていた。
(会場の人達も皆、耳を澄ませて……すごく嬉しい)
〇〇「……皆、頑張ってたもんね」
彼らの姿に目を奪われていた時…-。
キース「俺がプリンスアワードを獲ったら、お前はどう思う」
〇〇「え?」
振り向くと、キースさんの真剣な瞳が私を見つめていた。
キース「喜ぶのか?」
〇〇「キースさん……?」
漆黒の瞳に吸い込まれてしまいそうなほど、見つめられた後……
キース「……」
突然、キースさんがその場に跪いた。
〇〇「!?」
キースさんが私の手を取り、優しく口づけを落とす。
〇〇「……!」
彼の唇が触れた箇所が、たちまちに熱を帯び始める。
〇〇「キ、キースさん、あの…―!」
キース「プリンスアワードを獲ったら、お前がどんな顔をするのか見たくなった」
〇〇「キースさん……」
私を見上げる彼の瞳が、美しく煌めいている。
キース「どうでもいいと思っていたが……挑むとしよう」
キースさんが私を見上げ、柔らかく微笑んだ。
胸がいっぱいになり、笑顔がこぼれる。
キース「しっかり見ていろ」
〇〇「はい……」
彼の声が心の奥まで届いて、胸の鼓動がうるさいくらいに響き始める。
(嬉しい……)
溢れる想いを言葉にすることができず、私はただ何度も頷いた。
会場に、少年達の歌声が響き渡る。
その清らかな音色が、キースさんを応援するように、彼に降り注いでいる気がした…-。