記録の国・レコルド 凪の月…-。
風に花の香りが混じり始めた頃…-。
私は、プリンスアワードの式典に招待され、記録の国を訪れていた。
(プリンスアワード……誰が、選ばれるんだろう)
(なんだか、ドキドキする)
弾む胸に手をあて、街へと足を踏み出した。
立ち並ぶ建物に太陽の光が注ぎ、行き交う人々の笑顔もきらきらと輝いている。
プリンスアワードに向けて、街の雰囲気も活気づいていた。
(あれ……?)
人混みの隙間から、見知った後ろ姿を見かける。
(あれは、もしかして)
慌てて追いかけると、彼は裏路地に足を踏み入れるところだった。
〇〇「あの……!」
彼が、ゆっくりとこちらを向く。
〇〇「やっぱり、キースさん」
キース「……お前か」
〇〇「あ、あの……!」
キースさんは一言だけつぶやくと、さっさと裏路地を進んでいく。
私は、急いでキースさんの後を追った。
〇〇「やっぱり、キースさんもいらっしゃってたんですね。 プリンスアワード、楽しみですね」
キースさんはこちらを見ようともせず、吐き出すようにつぶやく。
キース「俺は興味がない」
〇〇「え……」
キース「王子としての手腕は持ち合わせているつもりだ。ここで名誉を与えられても仕方ない」
〇〇「そうですか……でも、式典には行かれるんですよね?」
キース「礼儀として招待には応じるべきだろう」
〇〇「でも、楽しそうな催し物もあるようですし……」
風が、キースさんの黒髪を柔らかく揺らす。
不意に、切れ長の瞳が私に向けられた。
キース「お前は、そんなに楽しみにしているのか?」
〇〇「……もちろんです。今からわくわくしています」
キース「……そうか」
キースさんは顔を背け、歩き続ける。
〇〇「あ、あの……」
前を歩くキースさんの背中を、私は小走りで追いかけた…-。