月最終話 子どものように

部屋へ戻ってきた時には、もうすっかり日が暮れていた。

ジークさんはすぐに扉の鍵を内側からかけてしまう。

○○「えっと・・・・・・寒かったですか?」

ジーク「いえ?」

○○「あ! 足が痛かったですか?」

ジーク「もう、足は随分いいですよ」

ジークさんは、バルコニーに出て、手すりにもたれかかる。

不意に扉が叩かれ、デザートワゴンを引く音が聞こえた。

(ジークさんが頼んだのかな・・・・・・?)

使用人「失礼いたします、お茶のご準備をいたしました」

ジーク「ありがとう。廊下に置いておいてください」

(どうしたんだろう?)

○○「私、取ってきま・・・-」

廊下へ向かおうとすると、ジークさんに手を掴まれる。

そのままバルコニーへと引き寄せられて・・・・・・

ジーク「・・・・・・行かせない」

彼の長い指に、そっと頬を撫でられた。

○○「え・・・・・・?」

夕焼けに照らされたジークさんの瞳が、炎が燃え上がるように揺らめいている。

ジーク「私だけを見つめる・・・・・・そういう約束のはずです」

(ずっと一緒にいるって・・・・・・そういう意味じゃなかったの?)

○○「あの・・・・・・?」

ジークさんは、私の手を掴む指に力を入れる。

ジーク「遠くの馬車や、お茶を運んでくれた給仕、それに・・・・・・あの、剣の腕が立つ兵士。 あなたの瞳は、目の前にいる私を容易く通り過ぎてしまう」

(そんな、こと・・・・・・)

まっすぐに私を見つめる彼の瞳から目が離せずに、私は心の中で反論をする。

ジーク「明日はプリンスアワードです。たくさんの王子達が集まる会場では、きっとあなたの瞳には私など・・・・・・」

ジークさんは、そう言うと急に黙り込み、頬を赤く染めた。

(もしかして・・・・・・やきもち焼いてくれたのかな?)

ジーク「・・・・・・」

(なんだか・・・・・・嬉しい)

こちらまで頬が熱くなってきて、私はそっとまつ毛を伏せる。

○○「ごめんなさい」

恥ずかしさのあまり消え入りそうな声を励まして、私は大きく息を吸った。

○○「でも・・・・・・私、ずっとジークさんのこと見てましたよ。 皇太后様をかばって怪我して・・・・・・痛いのに我慢していて・・・・・・。 どんな時も、完璧な王子様で。 そんなふうに思っていただけてるなんて、私・・・・・・」

ジーク「プリンセス・・・・・・」

スチル(ネタバレ注意)

ジークさんは、私の手を取りそっと自分の頬にあてる。

(ジークさんの頬、熱い・・・・・・)

ジーク「完璧などではありません」

ジークさんは、微かに声を震わせながら、私の瞳を覗き込んだ。

ジーク「私は、こんなにもあなたに焦がれ・・・・・・みっともないくらい、必死になっているのです」

○○「・・・・・・っ!」

ジーク「他の男に、あなたの視線が注がれるのが耐え難くて。 ・・・・・・あなたは、私のすべてだから」

うるさいほどに、心臓が甘い音を立てる。

彼の瞳が微かに揺れて・・・・・・その想いの深さを、突然に知った。

○○「ジークさん・・・・・・」

そっと彼の背に手を回し、抱きしめる。

彼がそれに応えるように私の腰を抱き寄せ、そっと髪に唇を落とした。

ジーク「・・・・・・どうか、どこにも行かないでください。 ここにいて・・・・・・夜が明けても、明日も明後日も、ずっと」

まるですがるように、彼は私を強く抱きしめる。

(かわいい・・・・・・)

いつも完璧なこの人を、たまらなくかわいいと思う。

彼の肩越しに見る世界は、いつもより少し優しく見えた・・・-。

 

 

おわり。

 

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