月7話 ジークのお願い

花々の間を、蝶達が忙しそうに飛び回っている。

負けた方が言うことを聞くという剣術勝負を終えた私達は、誰もいない花畑にやってきていた。

(あっという間に負けちゃった)

(明日はもうプリンスアワードなのに、結局、休んでもらえない・・・・・・)

ジーク「この辺りにしましょうか」

ジークさんが私のためにハンカチを敷いてくれ、その隣に腰を降ろす。

(それに、ジークさんのお願い・・・・・・『今日は私のことしか見ないでください』って、どういうことかな?)

(ゆっくり休んで足を治して欲しいのに)

思わずため息がこぼれ落ちる。

ジーク「・・・・・・お気に召しませんか?」

ジークさんの声に顔を上げると、目の前に四葉のクローバーが群生している。

○○「・・・・・・わあ! すごいですね」

驚いて声を上げると、ジークさんは柔らかく微笑んでくれた。

ジーク「お好きだと思ったので」

○○「これ、摘んでもいいのでしょうか」

ジーク「少しくらい、誰も咎めないと思いますよ」

(嬉しい)

(それに、よかった・・・・・・こうしていれば、少なくともジークさんが足を使わずに済むし)

私は、ジークさんの横に座り込み、摘むクローバーを選び始めた。

○○「こんなに四葉のクローバーがいっぱい生えているところ、初めて見ました」

ジーク「確か、幸せになれるという言い伝えがあるんでしたね」

○○「はい。私、一度しか見つけたことがないんですよ」

ジーク「・・・・・・」

ジークさんは、私の横からクローバーを覗き込み、その内の一輪を手折る。

そうしてそれを私の髪にそっと挿してくれた。

ジーク「・・・・・・幸せを、私のプリンセスに」

○○「・・・・・・っ」

頬が熱くなり、私は何度もまばたきを繰り返す。

ジーク「ああいけない。そのような顔をされたら、すべて手折ってしまいそうです」

(ジークさんって・・・・・・)

(なんて優しい顔で笑うんだろう)

愛おしげな瞳で見つめられると、胸の奥が甘く締めつけられる。

どうしていいかわからずに視線を逸らすと、遠くを何台もの車が通っていくのが見えた。

(明日のプリンスアワードに向けて、王子様が集まっているのかな)

○○「ジ、ジークさん。 あの車は、とてもカラフルですね。どこの国の王子様でしょうか」

ときめく胸の音を誤魔化そうと、私は明るく振舞ってみせる。

○○「それに、あの車は・・・-」

ジーク「帰りましょう」

○○「え?」

次の瞬間、ジークさんは私の手首を掴み、宿泊している城への道を引き返し始めた。

○○「あの・・・・・・?」

ジークさんは、こちらを振り向くことなく城を目指している。

車の音が遠ざかり、やがて何も聞こえなくなった・・・-。

 

 

<<月6話||月最終話>>