花々の間を、蝶達が忙しそうに飛び回っている。
負けた方が言うことを聞くという剣術勝負を終えた私達は、誰もいない花畑にやってきていた。
(あっという間に負けちゃった)
(明日はもうプリンスアワードなのに、結局、休んでもらえない・・・・・・)
ジーク「この辺りにしましょうか」
ジークさんが私のためにハンカチを敷いてくれ、その隣に腰を降ろす。
(それに、ジークさんのお願い・・・・・・『今日は私のことしか見ないでください』って、どういうことかな?)
(ゆっくり休んで足を治して欲しいのに)
思わずため息がこぼれ落ちる。
ジーク「・・・・・・お気に召しませんか?」
ジークさんの声に顔を上げると、目の前に四葉のクローバーが群生している。
○○「・・・・・・わあ! すごいですね」
驚いて声を上げると、ジークさんは柔らかく微笑んでくれた。
ジーク「お好きだと思ったので」
○○「これ、摘んでもいいのでしょうか」
ジーク「少しくらい、誰も咎めないと思いますよ」
(嬉しい)
(それに、よかった・・・・・・こうしていれば、少なくともジークさんが足を使わずに済むし)
私は、ジークさんの横に座り込み、摘むクローバーを選び始めた。
○○「こんなに四葉のクローバーがいっぱい生えているところ、初めて見ました」
ジーク「確か、幸せになれるという言い伝えがあるんでしたね」
○○「はい。私、一度しか見つけたことがないんですよ」
ジーク「・・・・・・」
ジークさんは、私の横からクローバーを覗き込み、その内の一輪を手折る。
そうしてそれを私の髪にそっと挿してくれた。
ジーク「・・・・・・幸せを、私のプリンセスに」
○○「・・・・・・っ」
頬が熱くなり、私は何度もまばたきを繰り返す。
ジーク「ああいけない。そのような顔をされたら、すべて手折ってしまいそうです」
(ジークさんって・・・・・・)
(なんて優しい顔で笑うんだろう)
愛おしげな瞳で見つめられると、胸の奥が甘く締めつけられる。
どうしていいかわからずに視線を逸らすと、遠くを何台もの車が通っていくのが見えた。
(明日のプリンスアワードに向けて、王子様が集まっているのかな)
○○「ジ、ジークさん。 あの車は、とてもカラフルですね。どこの国の王子様でしょうか」
ときめく胸の音を誤魔化そうと、私は明るく振舞ってみせる。
○○「それに、あの車は・・・-」
ジーク「帰りましょう」
○○「え?」
次の瞬間、ジークさんは私の手首を掴み、宿泊している城への道を引き返し始めた。
○○「あの・・・・・・?」
ジークさんは、こちらを振り向くことなく城を目指している。
車の音が遠ざかり、やがて何も聞こえなくなった・・・-。