プリンスアワード当日…-。
剣術の御前試合が始まる前の控室で、私は目を閉じて深く息を吐いた。
プリンセスと過ごしたこの数日間のことを思い返す……
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○○「無様だなんて……見とれるくらい格好よかったです」
ジーク「え……?」
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○○「ジークさん……もしも、私がジークさんに一回でも勝てたら、何か私のお願いを聞いてくれませんか」
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(プリンセスをエスコートして幸せな夜を過ごせたと思ったら)
(情けない姿を見られてしまい、そしてあなたは剣術勝負をしたいと言い出して……)
その時の驚きを思い出し、小さく笑みをこぼす。
(私に隠れ、他の兵士と練習を重ねていたあの時は……)
(嫉妬でどうにかなってしまいそうだった)
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○○「怪我した兵士さんが、どうしても動かないといけない時に使う技術があると伺ったんです。 私が以前いた世界でテーピングって呼ばれていたものだと思うんですけど」
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(私を想ってくれているからこその優しさとわかっていても)
(あなたが他の男性と同じ時間を過ごしていると考えると……)
昨夜、兵士を追って出て行こうとする彼女を引き止めた時、思い知ってしまった。
自分だけのプリンセスでいた欲しいと、恋しく思う気持ちに。
そして、気がつけば彼女にぶつけるようにすべての想いを吐露してしまった。
(……本当に、驚いてしまう)
幼い頃から、自らを厳しく律してきたつもりだった。
(こんなにも簡単に、醜い嫉妬心に振り回されてしまうなんて)
(きっと……プリンセスを戸惑わせてしまったことでしょう)
私は改めて決意する。
(私を心配してくださることは、とても嬉しい。だが……)
(プリンセス、あなたにはやはり笑っていて欲しい)
この剣術の御前試合を勝ち進め、彼女を心からの笑顔にすることを…-。
…
……
そして、ついに勝敗がつき…-。
審判「最終試合勝者、宝石の国・メジスディアのジーク王子」
会場中から拍手を浴びながら、階段を踏みしめる。
(彼女のおかげで、足をまったく痛みを感じなかった)
テーピングと、彼女への想いで掻き消えていたのだろう。
バルコニーまで上がってくる私を、プリンセスがじっと見つめている。
(ああ……本当によかった)
ジーク「……優勝いたしました」
(やっとあなたに、誇らしい姿を見せることができた)
(あのままの私では、プリンセスの前に立つ資格はなかった)
やがて彼女の目の前までたどり着き、腕が届く距離となった。
○○「おめでとうございます。 とても……素敵でした」
ジーク「プリンセス」
(もう、無理だ…-)
気持ちを抑えきれず、プリンセスを腕の中に閉じ込める。
彼女の息づかいが聞こえるぐらいまで顔を近づけると……
そっと、プリンセスが息を呑む音が聞こえた。
○○「……っ」
試合が終わったばかりなのか、自分が高揚しているのがわかった。
(いや、剣術試合のせいだけじゃない……)
(彼女への溢れる気持ちがこうさせるのでしょう)
我慢のできない子どものように、私は待ちきれず口を開いてしまう。
「御前試合の勝者は、あなたから祝福をいただけるのですよね」
○○「は……はい」
ジーク「先ほどのお言葉が本心からのものであるならば……。 本当に、素敵だと……頼もしいと、思ってくださるのなら。 私に、あなたをずっと守らせてください」
(ああ……駄目だ)
(せっかく優勝したのに、また情けない姿を見せてしまっている)
自分の声が、小さく震えていることがわかった。
ジーク「傍に置いて……私だけを頼ってください」
(ジークさん……)
ジーク「プリンセス、どうか勝者への祝福を」
願いを乗せた言葉は彼女へ届き……
さっと、私の顔に影が落ちる。
(今……唇に……?)
頬に落とされるであろうとばかり思っていた私は、言葉を失ってしまった。
しばらく呆けてしまったが、やがて一つの強い思いが胸に浮かんでくる。
(ああ、そうだ)
ジーク「私には、永遠にあなただけだ……」
もう一度自分の言葉を噛みしめ、今度は私がプリンセスへ影を落とす。
一度では満足できなくなってしまった欲張りな私は……
プリンセスへ気持ちが届くようにと深く深く口づけたのだった…-。
おわり。