カーテンが揺れて、柔らかな日差しがジークさんの頬に波を描く…ー。
ジーク「まさか、あなたがそんなことを考えていらしたとは」
私に剣で『負けた』ジークさんは、ソファに座り、足を休ませている。
隣に座っている私も、慣れない剣を握ったせいで疲れきっていた。
ジーク「ああ、手にマメまで作って……私のために、申し訳ありません」
ふと目を閉じた瞬間に、彼が私の手を優しく撫でる。
◯◯「……っ」
彼と見つめ合い、胸が甘い音を立てた時……
兵士「姫、お持ちしました~!」
私に剣を教えてくれた兵士さんが、大きな袋を手に部屋へと入ってきた。
◯◯「あ、ありがとうございます」
慌てて立ち上がり、照れ隠しに入り口まで歩いていく。
ジーク「……」
◯◯「どうぞ……よろしくお願いします」
兵士「はい! 王子、おみ足を失礼いたします」
ジーク「いったい、何を……?」
◯◯「怪我した兵士さんが、どうしても動かないといけない時に使う技術があると伺ったんです。 私が以前いた世界でテーピングって呼ばれていたものだと思うんですけど」
ジーク「テーピング?」
◯◯「はい。明日の御前試合には出られるんですよね? 少しでも足を痛めず、普段みたいに動けたら……って」
訝しんでいるのか、ジークさんの顔にはいつもの笑みが見えない。
兵士「ここをこうして……」
兵士さんから習ってジークさんの足にテープを巻いていると、彼は時折小さくため息を吐いた。
兵士「……これで完成です」
◯◯「ありがとうございます。ジークさん、どうですか?」
ジーク「ええ……随分楽に立てるような気がします。すごい技術ですね」
◯◯「よかった! これで、試合の時に痛みが和らぐといいんですけど」
ジーク「ありがとうございます。このようにお気遣いいただき……」
兵士さんが音もなく部屋を後にすると、ジークさんは私の瞳を覗き込む。
何か言いたげなその瞳を見つめ返そうとした時、目の端に兵士さんの忘れ物が入り込んだ。
◯◯「……あっ」
ジーク「どうかしましたか?」
◯◯「忘れ物です。走れば追いつくかな? 私、届けて…ー」
鍵束を拾い上げ部屋を出ようとすると、ジークさんに手首を掴まれる。
ジーク「……」
◯◯「ジーク、さん……?」
彼のもう片方の手が、開いたままの部屋の扉を音もなく閉めた…一。