太陽が空高くに登り、城のあちこちから人々が働く声が聞こえてくる…-。
○○「ジークさん……もしも、私がジークさんに一回でも勝てたら、何か私のお願いを聞いてくれませんか」
ジーク「……いいでしょう。 そうと決まれば、特訓をいたしましょう」
ジークさんは、なんだか嬉しそうに言って、私のために小さな剣を選んでくれた。
○○「いえ、でも、ジークさんも練習があるでしょうし」
ジーク「私の練習はあなたの特訓の後にしますから。お気になさらないでください」
(それじゃ、ジークさんの休む時間が少なくなっちゃう)
(そんなの本末転倒に……!)
○○「い、いえ!私、秘密の特訓をしますから」
視線を泳がせていると、ふと、大きな剣を携えた城の兵士さんが目に入った。
○○「そうだ、あそこにいる、あの兵士さんに教えてもらいます」
ジーク「……遠慮なさらないでください、プリンセス」
(ジークさん……)
なおも真剣に申し出てくれる彼に対して、申し訳なさは募るけれど……
(……ごめんなさい!)
○○「いえ、秘密の特訓がしたいんです!だから、絶対についてこないでくださいね!」
そう言い終えるなり、私はジークさんに背を向けて駆け出した。
…
……
兵士「姫、もっと肩の力を抜いてください」
○○「こ、こうでしょうか」
誰もいない原っぱで兵士さんから特訓を受け始めてしばらくすると、腕が剣の重みに悲鳴を上げる。
(頑張らなきゃ……ジークさんに少しでも休んでもらうんだから)
兵士「ジーク王子は相当な手練れです。隙をつくしか勝つ方法はありません」
(隙…)
その時…-。
ジーク「そろそろ休憩したらどうですか?」
ふわりと優しい声がして、ジークさんが木の陰から姿を現す。
○○「ジークさん!」
(こんなに遠くまで歩いてきたりして)
○○「ジークさん、秘密の特訓なのに、来たら駄目です」
ジーク「秘密って……なぜそんな必要が?私が教えて差し上げると何度も申し上げたでしょう」
○○「その……勝つために、秘密にしたいんです」
しどろもどろに言い返すと、ジークさんの顔から笑みが消える。
ジーク「……私の方が、その方よりも教えるにふさわしい実力を備えていると思いますが。 お疑いであれば、今ここで勝負を…-」
(足をこれ以上使わせるなんて、そんなこと、駄目だ……)
私は、くるりとジークさんに背を向ける。
○○「兵士さん、あちらへ行きましょう。秘密の特訓ですから」
(ごめんなさい……けど)
ジーク「プリンセス…-」
ジークさんの声に後ろ髪をひかれながらも、急足にその場を後にした。
…
去っていく○○と兵士の後姿を、ジークがじっと見つめている。
ジーク「……なぜ……」
肩に揺れる木々のざわめきに、ジークの小さな声が混じった…-。