翌朝……
朝の光はほとんど寝られなかった私にはまぶし過ぎるほどで、私は日陰を探して歩いていた。
(ジークさん、少しはよくなったかな)
(朝の手当てをしないと)
彼の部屋を訪ねる道で、私は信じられない光景を目にした。
○○「ジークさん!」
昨日あんなに足を腫らしていたジークさんが、剣の鍛錬をしている。
ジーク「おはようございます、プリンセス」
○○「な、何をしているんですか?足がまだ……」
明らかにまだ足は腫れているのに、ジークさんはそれをかばう様子もない。
ジーク「もう大丈夫です。あなたに看病していただいて、とてもよくなったのですよ」
○○「無理しないでください。もし悪化したら……」
ジーク「どのみち明後日のアワードまでに完治しませんから」
ジークさんは、なんでもないことのように言った。
ジーク「国同士の約束で決められた私の出場を取りやめるわけにはいけませんし。 怪我した足に気取られないよう、御前試合までに慣れなければ」
○○「でも……」
ジーク「あなたにそんな顔をさせてしまうなんて……私が不甲斐ないからですね」
○○「そんな!」
ジーク「ご覧ください。ほら、私は大丈夫ですよ」
そう言ってジークさんは再び剣の素振りを始める。
○○「ジークさ…-」
止めそうになって、昨日のことを思い出した。
――――――――
ジーク
「大切な式典を控えたこんな時に、騒ぎを起こすべきではありませんから」
――――――――
○○「……」
(ジークさんの考えてること……わかるけど……無理はしないでほしい)
(どうしたら、休んでくれるかな)
必死に考えていると、ふとジークさんと目が合った。
ジーク「そんなに熱心にご覧になって……面白いですか?」
(あ……私、そんなにじっと見てたかな)
○○「え、えっと……」
ジーク「もしかして、剣にご興味があるのですか?」
ジークさんがなんだかとても嬉しそうで、思わず頷いてしまった。
ジーク「そうですか。よろしければ、少しお教えいたしましょう」
○○「あ、ありがとうございます」
ジーク「まずは、こうして構えて……」
ジークさんは、私の背後に回り、私の手に剣を握らせてくれる。
ジーク「離します。重いですから、気をつけて」
(ほ、本当だ。重い……)
ジーク「次は、こうして振り上げ……。 一気に振り下ろす」
ジークさんの形を真似し、言われるままに剣を振る。
何度か繰り返したところで、ジークさんは私の手から剣を取り上げた。
ジーク「そろそろ、手が痛いのではありませんか。 しかし、なかなか筋がよくていらっしゃる。 この分では、すぐに一本取られてしまいそうだ」
○○「まさか、そんな」
ジーク
いえ。本当に、剣というのはわからないのですよ」
(……そうだ)
○○「ジークさん……もしも、私がジークさんに一回でも勝てたら、何か私のお願いを聞いてくれませんか」
ほんの思いつきだったけれど、私は真剣に彼の瞳を見つめる。
(言っちゃった……無謀だよね)
(でも、ジークさんに休んでもらいたい)
ジーク「……いいでしょう」
○○「!」
剣のこととなると少年のような顔をする彼を前に、私はぎゅっと拳を握りしめる。
初めて握った剣の重みが、まだ手の平に残っていた…-。