晩餐会の後……
ジーク「今夜はあなたをエスコートできて幸せな夜でした」
ジークさんは、食後の長い歓談までしっかりと終え、私を部屋まで送ってくれた。
(ジークさんって、絵本から出てきたみたいに完璧な王子様だな)
(礼儀作法も完璧で、いつでも人にやさしくて、剣舞もすごく上手で……)
ふと、先ほど彼の足を見て感じた違和感を思い出す。
○○「……本当に大丈夫ですか?」
ジーク「ええ。御心配をおかけしてしまいましたね」
ジークさんは、むしろ私を気遣うような様子で笑った。
ジーク「では…-」
彼は部屋の入口の方へと引き返そうとしたけれど、途中で壁に手をつき立ち止まってしまう。
○○「ジークさん?」
ジーク「大丈夫……」
(大変!顔が真っ青……!)
ジークさんはその場に倒れ込みそうになり、私は慌てて近くのソファーへと誘導した。
ジーク「申し訳、ございません……」
○○「やっぱり、怪我をしたんですね?どうして……」
彼の足は、靴の上から見てもわかるほどに腫れ上がっている。
(すごく痛そう……)
ジーク「招待した他国の王子に怪我をさせたとあっては、国際問題になってしまいます」
ジークさんは、真っ青な顔に、それでも笑みを浮かべている。
○○「それは……」
(でもこんなになるまで……)
ジーク「大切な式典を控えたこんな時に、騒ぎを起こすべきではありませんから」
口元まで出かかった言葉は、彼の毅然とした眼差しを前に、ひどく恥ずかしいものに感じられた。
(ジークさんは、正しい)
(私がもっと早くにちゃんと気づいて、理由をつけて食後の歓談を切り上げればよかったんだ)
ジークさんの苦しそうな顔を見ると、やるせない思いが込み上げてくる。
(どうしよう……お医者さんを?)
(でも、お医者さんだってこの国の人だから)
私は、大きく息を吸い、頭を切り替えると、彼の靴の紐を緩める。
ジーク「プリンセス?」
○○「じっとしてください。手当てをします」
ジーク「あなたにそのようなことをしていただくわけには……」
○○「お願いします……私にやらせてください」
自分が情けなくて、声が震えてしまう。
ジーク「……私にとって、一生に一度の幸運……でしょうか」
ジークさんは申し訳なさそうに笑った。
そっと靴を脱がすと、腫れ上がった足首に冷たく冷やしたタオルをあてる。
シャンパンクーラーの中にあった氷をタオルに包み、さらにその上から包み込んだ。
ジーク「……っ!」
○○「痛いですか……?」
ジーク「いえ。あなたに手当をしていただけるなんて……怪我をしてよかった」
○○「そんな…-」
ジーク「でも本当は……あんな無様なところは見せたくなかったのですが」
ジークさんは、こんな時まで私を気遣ってくれる。
○○「無様だなんて……見とれるくらい格好よかったです」
そんなジークさんを前に、思わず本音が漏れてしまった。
ジーク「え……?」
(あ……!私、つい……)
○○「あ、あの……」
ジーク「……っ」
目が合うとジークさんの頬が見る見るうちに真っ赤に染まっていく。
○○「も、もう少しタオルを持ってきます。ゆっくり休んでくださいね」
慌てて部屋を飛び出して、扉の前で息を吐いた。
今になって、自分の頬が熱くなっていく。
(ジークさん、真っ赤だった)
(びっくりしたよね……いきなりあんなこと言って、変に思われたかな)
(恥ずかしい……)
扉の取っ手がひんやりと心地よく感じられる
全身が心臓になったようで、しばらくはその場から動けなかった…-。