第2話 晩餐会

その夜…-。

ジークさんと私は、記録の国の皇太后様の晩餐会に招かれていた。

(王様のお母様……だよね?なんて上品な方)

車いすに腰掛けた皇太后様は、私たちに気取らない、輝くような笑みを向けてくださる。

ジーク「お招きいただき、光栄でございます」

胸に手を当て恭しく膝を折ったジークさんを見て、私も慌ててお辞儀をした。

皇太后「あらあら。そんな堅苦しい挨拶は抜きにして、どうぞおかけください」

ジーク「恐れ入ります」

ジークさんは、皇太后様にもう一度礼をすると、私を席までエスコートしてくれる。

ジークさんが私の隣の席に着くと、いっせいにグラスにお酒が注がれ、初めの皿が給仕された。

皇太后「実は、この通り足が弱ってしまっているものですから……。 剣術の御前試合を楽しみにしていたのですけれど、式典の会場には行けそうもないのです」

(御前試合……)

剣術の御前試合もまた、式典を盛り上げるための催しの一つであると聞いていた。

ジーク「左様でございましたか……」

皇太后「それで、今日は○○姫にお願いがあって、お呼び立てしたのです」

○○「私に、ですか?」

皇太后「はい。実は、御前試合の勝者には、わたくしが祝福を与えることになっていたのです。 その役目を、わたくしの代わりに、姫にお願いできないかと思っているのです」

○○「え……」

ジーク「○○姫が……?」

突然の申し出に、私もジークさんも瞳を瞬かせた。

○○「とても光栄なのですが、私に務まるのでしょうか……?」

皇太后「もちろんですとも。方法はなんでもよろしいのよ。私の場合は、頭に手をかざします。 でも、美しい姫からの祝福といえば……キスがいいのではないかしら」

○○(キス!?)

皇太后「本当は、毎年楽しみにしていた一番大好きな公務なのですけれど……」

○○「皇太后様……」

私はジークさんと、そっと視線を交わし合って…-。

○○「そのお役目、お受けいたします。力不足かもしれませんが…-。」

皇太后「本当に、ありがとうございます」

皇太后様の笑みは優しく、けれど少し悲しそうで……

ジーク「プリンセス?」

○○「何か……できることはないでしょうか」

そっとジークさんに囁きかけると、彼は小さく頷く。

ジーク「私も同じことを考えていました。 実は、私は剣術の御前試合に参加する予定なのです」

皇太后「まあ!」

ジーク「この場で試合はできませんが……よろしければ、食事の後に剣舞などをご覧に入れましょう」

皇太后「なんて嬉しいことでしょう……!」

皇太后様は、本当にうれしそうに胸に手をあてる。

(ジークさん……よかった)

ジークさんが笑うと、胸が小さく音を立てた…-。

……

そうして、食事が終わると……

ジーク「皇太后陛下と……私のプリンセスの御為に」

ジークさんが皇太后様に見える場所で、剣を手に舞い始める。

(すごい……!)

軽々と宙を舞い、流れるように剣を閃かせる彼の一挙一動に、私は何度も息を呑んだ。

皇太后「なんて、素晴らしい……!」

皇太后様も、感極まったのか、いつ間にやら車いすから立ち上がっている。

(足は、大丈夫なのかな?)

ふと、そう思った瞬間……

○○「危ないっ!」

ジーク「!!!」

皇太后様がバランスを崩し、宙を舞っていたジークの方へとよろけてしまった。

ジーク「……っ!」

思わず閉じてしまっていた目を開けると、ジークさんが少し遠い場所に倒れ込んでいる。

○○「ジークさん!皇太后様!」

慌てて席を立ち、二人の方へと駆け寄る。

皇太后「わ、わたくしを避けて、無理に遠くへ着地されたのです。 わたくしのせいで……」

従者の方と一緒にジークさんを助け起こそうとすると、彼は小さく首を振った。

○○「ジークさん!」

ジーク「プリンセス、ご心配をおかけして申し訳ございません」

小さく私の耳元で囁くと、ジークさんは自分の足で立ち上がる。

(怪我は……?)

ジーク「……私の鍛錬が足りず、無様なところをお見せしてしまい申し訳ございません」

ジークさんは、皇太后様の元へ向かい、深々と頭を下げる。

皇太后「王子、そのような……!」

ジーク「皇太后陛下におかれましては、お怪我はございませんでしたか?」

皇太后「ええ、ええ……」

ジークさんは穏やかな笑みを浮かべ、足元のおぼつかない皇太后様に手を差し伸べた。

(よかった、お二人とも大丈夫みたい)

ため息を吐いてから、私はふと彼の足の動きに違和感を覚える。

(あれ?ジークさん……)

にこやかに笑う彼の横顔が、青白いような気がした…-。

 

 

<<第1話||第3話>>