花畑には穏やかな日差しが降り注いで、優しい風が通り過ぎている。
いつもならこんな光景を目にすれば心が弾んで仕方ないのに、今日はため息しか出なかった。
(どうして僕だけ、外に出ちゃいけないの?)
それは、僕が王子だから……自分でも、本当はわかっている。
(でも僕は、もっと外の世界が知りたいよ……)
見たことがないもの、聞いたことのない音、感じたことのない世界……
そういうものを、もっともっと知りたくてたまらなかった。
(皆は外に出られるのに、どうして僕だけが……)
膝をきゅっと抱えると、優しい足音が近づいてきた。
(○○だ……)
すぐにわかったけれど、何も言えずにうつむいた。
リオン「……」
○○も、何も言わずに僕の隣に腰を下ろす。
その温もりを感じながら、僕は静かに尋ねた。
リオン「……どうして僕を追いかけてきたの?」
○○「どうしてって……リオンくんが心配だからだよ」
当たり前のように彼女は言った。
○○「ねえ、リオンくん。 ちゃんと、お兄さん達や弟さん達にリオンくんの本当の気持ち、話そう?」
リオン「でも、わかってもらえなかったら寂しいよ……」
僕のせいだと、皆が責める。
(それは正しいんだってわかってる、でも……)
(このまま、お城に閉じ込められるのは嫌だ。でも、わかってもらえない……)
苦しくて、切ない……胸がぎゅっと締めつけられて、そっと手をあてる。
○○「最初から諦めたら駄目だよ。リオンくんの思いを、伝えてみよう?」
(……君は、強いんだね)
彼女の言葉に迷いがない。
きっと大丈夫だと、確信しているからなのか、それとも……
(大丈夫になるまで頑張ろうって、思ってるからなのかな)
(強いな、君は……僕一人じゃ、そんなことできないよ)
(でも……僕だけじゃ、なかったら?)
僕はすがるように、彼女の目を見つめた。
リオン「……だったら○○も一緒に来てくれる? 皆が僕がどれだけ外の世界を旅したいか、一緒に伝えてくれる?」
そんな僕のお願いに、彼女はためらうことばく頷いた。
○○「もちろんだよ」
(……強いだけじゃないんだ。優しいんだね、君は)
僕をまっすぐに見つめて、そっと手を取る。
その温もりは、僕の心に優しい光を注いでくれた。
(あったかい……おひさまみたい)
(君となら、なんでもできそう)
ほのかに灯った光は、少しずつ大きくなっていった。
それから、約束通り彼女は僕と一緒に来てくれて、兄さん達を説得できて……
僕は一年のうち3ヶ月を王子として過ごし、残りを自由に旅できることになった。
そして……約束の3ヶ月が過ぎて旅立ちの日になり、○○が、再びヴィラスティンにやってきた…―。
どこまでも続く大草原で、僕は旅立ちの時間をそわそわと待ち続ける。
そんな僕に、○○はくすくすと笑いながら話しかけてくれた。
○○「忘れ物はない? 何かお兄さん達や弟さん達に言い忘れたことは?」
リオン「うん、大丈夫」
大きな魔法の綿毛を手に、僕はしっかりと頷いた。
けれど……
(……そっか。このまま僕が旅に出たら、○○ともしばらく会えなくなっちゃうんだ)
僕に勇気をくれた彼女のことを、じっと見つめる。
あったかいおひさまみたいな温もりとも笑顔とも、しばらくお別れだ。
(そんなの、やだな……)
(自由気ままに旅をしたい……この気持ちは本当)
だけど、彼女と一緒にいたい想いも、同じくらい大きくて……
(……そうだ!)
リオン「やっぱり、一個だけ!」
○○「え!?」
そよ風が吹き、ふわりと体が宙に舞う。
(早く言わなきゃ)
僕はまっすぐ手を伸ばし、彼女に笑顔を向けた。
リオン「僕、初めに言ったよね、一緒に風に乗ろうって! だから、ね! 君も一緒に来なよ、僕の旅に!」
○○「え!?」
彼女の手をぎゅっと握る。
○○「……っ!」
次の瞬間、 僕と○○の体は、一緒に空へと舞い上がった。
真下には、ヴィラスティンの大草原が広がっている。
僕達の旅立ちを祝福するように、優しい風が吹いていた。
リオン「あははっ! 最初はどこに行こうかな? ○○は、どこがいい?」
○○「じゃあ、リオンの行きたい場所!」
(あっ……! 呼び方が……)
(嬉しいな。もっと仲良くなれたみたい!)
幸せが溢れ出して、僕は空へ視線を投げた。
リオン「うん、行こう! どこまでも、一緒に……!!」
遠く遠く、どこまでも遠く……
(○○と一緒なら、なんでもできる)
(だって、たくさんの勇気をくれるから!)
彼女を抱き寄せると、あったかい気持ちが流れ込んでくる。
優しい風に運ばれて、僕達の旅は今、始まった…―。
おわり。