花畑の中で膝を抱えているリオンくんは、あまりに切ない表情をしていて……
私はしばらく何も口にすることができなかった。
リオン「……」
顔を伏せたままのリオンくんの横に腰を下ろし、そっと寄りそう。
けれどしばらくすると、リオンくんはうつむいたまま口を開いた。
リオン「……どうして僕を追いかけてきたの?」
○○「どうしてって……リオンくんが心配だからだよ」
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リオン「僕、お兄ちゃん達や弟達に王子様の地位を譲って、自由気ままに旅に出たい……。 もっと外の世界のことだって、いっぱい知りたいよ……!」
ー----
外の世界に対しての、リオンくんの強い憧れを思い出す…―。
○○「ねえ、リオンくん。 ちゃんと、お兄さん達や弟さん達にリオンくんの本当の気持ち、話そう?」
リオン「でも、わかってもらえなかったら寂しいよ……」
リオンくんが首を左右に振ると、彼の髪飾りが小さく揺れた。
その様子に、また胸が苦しくなって……
○○「最初から諦めたら駄目だよ。リオンくんの思いを、伝えてみよう?」
すると……
リオン「……だったら○○も一緒に来てくれる?」
彼は縋るような瞳で、私を見つめてきた。
リオン「皆に僕がどれだけ外の世界を旅したいか、一緒に伝えてくれる?」
○○「もちろんだよ」
つぶらな瞳を真っ直ぐに受け止めて、彼の手を握りしめる。
するとリオンくんの目に、光が宿り始めたのだった…―。
その後…―。
私達は城に戻り、お兄さん達や弟さん達に、素直な気持ちを必死で伝えた。
軽くあしらわれても、断られても、何度も諦めずに説得し続けた。
(必死な顔……)
真っ直ぐに自分の気持ちと向き合うリオンくんに、逞しい生命力を感じる。
そしてやがて…―。
リオンの兄1「大地と水の女神様が決めたことを我々の一存で覆していいものか……。 だが、お前の気持ちもよくわかった。 どうにかして兄弟皆で手分けをして、王子の責務を果たせないか、これからは努力してみよう」
リオン「……!」
リオンくんの顔に、喜びと共に驚きが広がる。
リオン「お兄ちゃん……本当に?」
リオンの兄2「嘘など言いませんよ。私達タンポポの民が何より旅を愛しているのは、皆同じなのですから…―」
お兄さん達は、小さな弟を慈しむように優しくリオンくんに笑いかける。
私とリオンくんは思わず互いの手を取り、喜び合った…―。
お兄さん達の尽力もあり、晴れてリオンくんは一年の内の3カ月を王子として過ごし、その残りを自由に旅して生きることを許された。
そして約束の3カ月は流れ、遂に旅立ちの日……
私はもう一度、ヴィラスティンの地へ訪れたのだった…―。
どこまでも続く大草原で、旅立ちの準備を済ませたリオンくんが、今か今かとその時を待っ
ている。
○○「忘れ物はない? 何かお兄さん達や弟さん達に言い忘れたことは?」
リオン「うん、大丈夫」
リオンくんは、手に大きな魔法の綿毛を持ちながら頷く。
だけど一瞬、戸惑うような視線を見せて……
リオン「やっぱり、一個だけ!」
○○「え!?」
その時、一面の花畑をそよ風が吹き抜けた。
リオンくんの体が、ふわりと宙に浮きあがったかと思うと…―。
リオン「僕、初めに言ったよね、一緒に風に乗ろうって! だから、ね! 君も一緒に来なよ、僕の旅に!」
○○「え!?」
彼の小さな手が、力いっぱい私へと伸ばされて……
○○「……っ!」
次の瞬間、私の体もリオンくんと共に空へと舞い上がった。
(すごい……こんなに高く!)
眼下には、ヴィラスティンの緑豊かな大地が遥か遠くまで広がっている。
私の手は、しっかりとリオンくんの手を握りしめていた。
リオン「あははっ! 最初はどこに行こうかな? ○○は、どこがいい?」
○○「じゃあ、リオンの行きたい場所!」
弾む気持ちを抑えきれなくて、彼のことをそんなふうに呼んでしまう。
リオン「うん、行こう! どこまでも、一緒に……!!」
風に吹かれるまま、私達は青空を流れてゆく。
隣を見れば、そこにはまだ見ぬ場所に思いを馳せるリオンくんのきらきらした瞳があって……
(どこに辿り着いたとしても……リオンくんと一緒なら)
そこにはきっと、楽しいことが待っている。
そんなことを思いながら、私はもう一度リオンくんの手をぎゅっと握った…―。
おわり