リオン「……あのね、外に出ない? 僕が合図をしたら城の窓から飛び出すから…-」
どこか元気のないリオンくんに、急にそんなことを言われて…-。
○○「え、今なんて……」
リオン「3、2、1、ハイっ!」
○○「……っ!」
彼に腕を掴まれたかと思うと、私の体は城の窓から飛び出していた。
(っ、落ちる……!!)
思わずぎゅっと目をつむると…-。
○○「あ……れ?」
私の体は地面に叩きつけられることもなく、中庭の地面に舞い降りていた。
(体が……浮いた!?)
閉じた瞳を開くと、目の前にはほっと息を吐くリオンくんの姿がある。
○○「今のは……どうなってるの? リオンくん」
リオン「ほら、早くついてきて!」
○○「え…-」
(二階の窓から飛び降りたはずなのに……何ともない)
不思議だったけれど、ずんずんと歩みを進める彼に、そのことを聞く暇すらもらえない。
○○「リ、リオンくん…-?」
リオン「こっちだよ!」
(せめて、行き先ぐらいは……)
手を引かれるままに薔薇の咲く垣根をくぐり、水路を越える。
その時…-。
侍女1「大変ですわ! またリオン様が!」
○○「えっ!」
飛び降りた二階の窓の方から、侍女達が騒ぐ声が聞こえてきた。
リオン「隠れてっ!」
私はリオンくんに言われるがまま、垣根に身を隠した。
侍女2「お部屋にもいません! 裏口の方にも!」
侍女1「誰か早く城の門番に伝えてきて!」
息をひそめていると、侍女達の声はやがて遠ざかっていった。
私は隣でじっとその様子をうかがっていたリオンくんに……
○○「いったい、何があったの?」
リオン「しーっ! 城の外に出るまではお願いだから黙ってついてきて」
○○「……う、うん」
人差し指を唇にあてられて、素直に首を縦に振る。
リオン「ほら! 今のうちに外を目指すよ」
再び、リオンくんに手を引かれる。
その後私達は、まるで鬼ごっこのように姿を隠しては外を目指した。
(いったい、どういうことなんだろう……)
疑問が募る中、リオンくんは私の手をしっかりと握ってくれている。
まだ大人になりきってない、温かい手……
(小さな手……)
…
……
入り組んだ垣根の迷路を越えて、秘密の出入口を通り……
(あれ……ここは?)
○○「リオンくん、外に出ちゃったけど……」
リオン「うん、外に出たんだよ」
やがてやってきたのは、活気溢れるヴィラスティンの城下町だった。
○○「あの……リオンくん、まだ歩くの? いったいどこに…-」
リオン「……」
(教えてくれない……)
街の中央にある噴水まで来ると、彼は大きく息を吐き出した。
リオン「ふわぁ……ようやく外の空気だあ……っ! あのお城から出かけられたら、どこでもよかったんだけど、せっかくだしね!」
今まで萎んだ蕾のようだった彼の顔に、春の陽気にも似た笑顔が浮かぶ。
(あ、この顔……)
初めて花畑を見た時と同じ、どこまでも明るい笑顔がそこにある。
○○「……よかった、元気になって。心配したよ」
リオン「え!? 君、心配してたの?」
私も一緒になって笑い返すと、リオンくんは意外そうな表情を浮かべた。
○○「うん、だってびっくりしたから」
リオンくんは困ったように地面に落ちた小石を蹴る。
リオン「確かに……何も言わないで君を連れてきちゃったのはゴメン……。 けど、君とは城の中じゃなくて、外でいっぱいお話したかったんだ!」
はにかむように笑ったリオンくんの頬が愛らしいピンクに染まる。
私はその天使の微笑みを前に何も言えなくなってしまった…-。