第3話 天使の微笑み

リオン「……あのね、外に出ない? 僕が合図をしたら城の窓から飛び出すから…-」

どこか元気のないリオンくんに、急にそんなことを言われて…-。

○○「え、今なんて……」

リオン「3、2、1、ハイっ!」

○○「……っ!」

彼に腕を掴まれたかと思うと、私の体は城の窓から飛び出していた。

(っ、落ちる……!!)

思わずぎゅっと目をつむると…-。

○○「あ……れ?」

私の体は地面に叩きつけられることもなく、中庭の地面に舞い降りていた。

(体が……浮いた!?)

閉じた瞳を開くと、目の前にはほっと息を吐くリオンくんの姿がある。

○○「今のは……どうなってるの? リオンくん」

リオン「ほら、早くついてきて!」

○○「え…-」

(二階の窓から飛び降りたはずなのに……何ともない)

不思議だったけれど、ずんずんと歩みを進める彼に、そのことを聞く暇すらもらえない。

○○「リ、リオンくん…-?」

リオン「こっちだよ!」

(せめて、行き先ぐらいは……)

手を引かれるままに薔薇の咲く垣根をくぐり、水路を越える。

その時…-。

侍女1「大変ですわ! またリオン様が!」

○○「えっ!」

飛び降りた二階の窓の方から、侍女達が騒ぐ声が聞こえてきた。

リオン「隠れてっ!」

私はリオンくんに言われるがまま、垣根に身を隠した。

侍女2「お部屋にもいません! 裏口の方にも!」

侍女1「誰か早く城の門番に伝えてきて!」

息をひそめていると、侍女達の声はやがて遠ざかっていった。

私は隣でじっとその様子をうかがっていたリオンくんに……

○○「いったい、何があったの?」

リオン「しーっ! 城の外に出るまではお願いだから黙ってついてきて」

○○「……う、うん」

人差し指を唇にあてられて、素直に首を縦に振る。

リオン「ほら! 今のうちに外を目指すよ」

再び、リオンくんに手を引かれる。

その後私達は、まるで鬼ごっこのように姿を隠しては外を目指した。

(いったい、どういうことなんだろう……)

疑問が募る中、リオンくんは私の手をしっかりと握ってくれている。

まだ大人になりきってない、温かい手……

(小さな手……)

……

入り組んだ垣根の迷路を越えて、秘密の出入口を通り……

(あれ……ここは?)

○○「リオンくん、外に出ちゃったけど……」

リオン「うん、外に出たんだよ」

やがてやってきたのは、活気溢れるヴィラスティンの城下町だった。

○○「あの……リオンくん、まだ歩くの? いったいどこに…-」

リオン「……」

(教えてくれない……)

街の中央にある噴水まで来ると、彼は大きく息を吐き出した。

リオン「ふわぁ……ようやく外の空気だあ……っ! あのお城から出かけられたら、どこでもよかったんだけど、せっかくだしね!」

今まで萎んだ蕾のようだった彼の顔に、春の陽気にも似た笑顔が浮かぶ。

(あ、この顔……)

初めて花畑を見た時と同じ、どこまでも明るい笑顔がそこにある。

○○「……よかった、元気になって。心配したよ」

リオン「え!? 君、心配してたの?」

私も一緒になって笑い返すと、リオンくんは意外そうな表情を浮かべた。

○○「うん、だってびっくりしたから」

リオンくんは困ったように地面に落ちた小石を蹴る。

リオン「確かに……何も言わないで君を連れてきちゃったのはゴメン……。 けど、君とは城の中じゃなくて、外でいっぱいお話したかったんだ!」

はにかむように笑ったリオンくんの頬が愛らしいピンクに染まる。

私はその天使の微笑みを前に何も言えなくなってしまった…-。

 

 

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