その夜…-。
窓の外では、冷たい月の光が夜を照らしている。
昼間の出来事が頭を巡り、私は寝つくことができずにいた。
―――――
ユリウス『もう前みたいに……お前の近くにはいられない』
―――――
(私……)
息もできないほどの苦しさがこみ上げて、私は自分の気持ちに一つの答えを見つける。
(私、ユリウスさんのことが好きなんだ……)
胸の苦しさを抑えきれず、私はユリウスさんの部屋へと向かった…-。
ユリウスの従者「どうかされましたか?」
ユリウスさんの部屋の前では、内通者を撃った男性が見張りをしていた。
〇〇「すみません……ユリウスさんは、もうお休みですか?」
ユリウスの従者「いつもでしたら、まだ起きてらっしゃるかとは思いますが……。 あの日以来、ユリウス様はますますお心が休まらないご様子。 でも貴方になら、ユリウス様も心を許されるかもしれませんね」
そう言って彼は、ユリウスさんの部屋の前から少し遠ざかった。
(また、拒絶されるかもしれない……でも)
勇気を振り絞って、彼の部屋をノックする。
……けれど、中から返事がない。
ドアノブに手をかけて、おそるおそる扉を開くと……
(この、香りは……)
―――――
ユリウス『いい香りだ。オレも気に入った……ありがとな』
―――――
ユリウスさんの部屋は、あの時二人でつくった香りで満たされていた。
〇〇「……っ」
その香りが私を包み、また涙がこぼれそうになる。
〇〇「ユリウスさん……」
ユリウスさんは、ほとんど寝息も立てず、眠り込んでいる。
私は無意識に、彼に近づいてしまった…-。
ユリウス「……!!」
ユリウスさんは瞬時に飛び起きて、私をベッドに押さえつけた。
彼の大きな手が、私の首を掴んでいる。
〇〇「……っ!」
ユリウスさんの瞳は、虚ろだった。
〇〇「ユリウスさん……」
私は、かすれる声で彼の名前を呼ぶ。
(私に、できることはないですか……?)
恐ろしいほどに空虚なその瞳を見つめていると、私の頬を冷たいものが伝う。
ユリウス「〇〇……?」
やがてユリウスさんの瞳に色が戻っていく…-。
私の首にかけた手を慌ててどけると、彼は愕然として私を見つめた。
〇〇「……ごめんなさい。どうしても、ユリウスさんに会いたくて」
ユリウス「……バカか! お前は!」
ものすごい剣幕で、ユリウスさんが怒鳴る。
ユリウス「昼間、オレが言ったことがわかんねーのか! オレがこのまま力を入れてたら、お前は……」
そこまで言って、ユリウスさんは言葉を止めた。
ユリウス「……ごめんな……」
〇〇「……え?」
壊れものでも扱うように、彼は私の頬の涙をそっと拭う。
ユリウス「ごめん……」
そのまま彼の潤んだ瞳が近づいて…―。
〇〇「……っ」
唇が重なり合い、私の呼吸を奪う。
優しく頬に手を添えられると、刹那……熱い吐息が漏れた。
〇〇「ユリウス……さん?」
不意に起き上がり、ユリウスさんは私に背を向ける。
〇〇「……!」
肩が震え、その背中が泣いているように見えた。
私はユリウスさんの背中をぎゅっと抱きしめた。
ユリウス「オレは……どうしたらいい。 お前に傍にいて欲しい……。 でも、そうするとオレ自身がお前を傷つけてしまうかもしれない」
〇〇「私は……ユリウスさんの傍にいたいです」
ユリウス「オレはいつか……お前を殺してしまうかもしれない」
私は、ユリウスさんを抱きしめる力を強くする。
〇〇「そんなことにはなりません……。 だから、怖がらないでください……」
ユリウスさんは私に向き直ると、強く抱きしめた。
そのままベッドに倒れ込み、そして…―。
ユリウス「〇〇……」
私を呼ぶユリウスさんの声は震えていた。
胸に切なさと愛しさがこみ上げ、私は彼の首筋にそっと口づけを落とす。
〇〇「ユリウスさん、私……ずっと傍にいますから」
(だから一人で苦しまないで)
その言葉を確かめるように、彼の舌が私の唇を割る。
〇〇「……っ」
どうしようもなく甘い吐息が漏れて、私は彼の首にそっとすがった。
ユリウス「いいのか……?」
ユリウスさんの吐息が、私の耳にかかる。
(ユリウスさんの心の闇の深さは計り知れないけど…-)
(少しでも、あなたの心が安らぐといい)
(私が、そうしてあげたい……)
私は壊れそうに震える彼の瞳に笑いかけた。
〇〇「……はい」
ユリウスさんの瞳がぎゅっと閉じられる。
私達の間を遮る布が一枚一枚取り去られ……
ユリウス「もう、離さない……」
全身にユリウスさんの唇が落とされる。
私達はそのまま、深い夜の闇へ溶けていった…-。
おわり。
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