銃声の余韻が、花畑に不穏な空気を漂わせている…-。
(え……)
ぎゅっとつむった目を開けると、ユリウスさんと戦っていたスパイの男が崩れ落ちていた。
??「ユリウス様!」
ユリウス「お前は……」
先程私に向けて銃を構えていた男が、こちらへ駆け寄ってくる。
(どういうこと……?)
ユリウスの従者「申し訳ございません! スパイの情報を得て、奴らの近辺にもぐり込んでおりました!」
スパイの男「俺達の中にも、スパイがいたってことか……ははっ」
スパイの男は、銃声を聞いて駆けつけた他の従者さん達に捕えられた。
(よかった……)
ほっと胸を撫で下ろしていると……
ユリウス「……大丈夫か」
ユリウスさんが、私の傍にかがみ込んでくれる。
〇〇「はい……」
立ち上がろうとするけれど、足が痛くて上手く立ち上がれない。
ユリウス「……」
その様子を見たユリウスさんが、私をふわりと抱き上げた。
〇〇「ユ、ユリウスさん……!」
ユリウス「……ごめんな。死なせるとこだった」
(ユリウスさん……)
ユリウスさんは、悲痛な声でそう言って、私をきつく抱きしめた。
彼に抱かれたまま、私は城へと戻った…-。
それから数日後…-。
この国に来て初めて、太陽がその姿を隠している。
あれ以来、ユリウスさんとまともに話ができていない。
(ユリウスさん、どうしてるんだろう)
ユリウスさんに安静を命じられ、私は部屋から出ることも許されないでいた。
―――――
ユリウス『……ごめんな。死なせるとこだった』
―――――
彼の悲しそうな声が、頭の中で何度も繰り返される。
(会いたい……)
窓辺にもたれ、そっと胸に手を当てると、突然扉が開かれた。
ユリウス「……怪我の具合は」
〇〇「ユリウスさん!」
久しぶりに見るユリウスさんの顔は、少しやつれているようだった。
〇〇「ユリウスさん……大丈夫ですか? 顔色が……」
ユリウス「……!」
思わず伸ばしてしまった私の腕を、ユリウスさんは乱暴に振り払った。
〇〇「……っ」
ユリウス「……悪い。 最近、ちょっと気が立ってて」
抑えきれない苛立ちが、彼から伝わってくる。
ユリウス「……敵のスパイがあいつだけとは限らない。お前は部屋から出るなよ」
きつく戒めるようにそう言って、ユリウスさんは私の部屋から出て行った。
〇〇「ユリウスさん、待って……っ!」
気がつくと、私の足は彼を追いかけてしまう。
足早に遠ざかっていくユリウスさんの後ろ姿が、消えてしまいそうに見えた…-。