その日の昼下がり…-。
(朝のことを思い出すと……)
ユリウスさんに庭に呼び出され、私はどきどきと音を立てる胸を押さえていた。
(ユリウスさんの顔が恥ずかしくて見れない……)
ユリウス「……手を出せ」
突然に言われ、私は瞳をまばたかせる。
〇〇「……手?」
ユリウスさんは私の手のひらに、花の形のガラス小瓶を置いた。
〇〇「これは……?」
蓋を開けて、ユリウスさんは自分の手の甲に中の液体を滴らせる。
そしてその雫を私の首筋にそっとこすりつけた。
〇〇「……っ」
突然のことに、思わず体が跳ねそうになってしまうけれど……
やがて私の首筋から、いい香りが漂ってきた。
(……この香りは)
それは、二人でつくったあの香りに似ていた。
だけど、それに加えてどこか……優しい香りが感じられる。
ユリウス「……オレが、あの香りを元につくってみたんだ。 お前をイメージした香りだ」
〇〇「……ユリウスさん」
嬉しさと恥ずかしさで、私は彼の顔を見ることができずにいる。
ユリウス「……あと。 お前に、何か礼がしたくて」
少し照れくさそうに、ユリウスさんが微笑んで…-。
真っ赤な薔薇の花束が、私の前に差し出された。
ユリウス「オレは、お前といるとすげぇ安心して眠れる。 お前はどう思ってるか、わかんねえけど。 オレ、お前のこと好きなんだと思う……」
〇〇「ユリウスさん……」
ユリウスさんは、少し頬を染めてまっすぐに私を見つめている。
その姿に、私の胸の鼓動が急に早まっていった。
(ユリウスさんが、私を……)
彼のまっすぐな視線を受けて、巡らせていた思いが一つの答えにたどり着く。
(私も……)
私は、ユリウスさんから薔薇の花束を受け取った。
〇〇「私も、ユリウスさんのことが……好きです」
それはまるで、気持ちが唇からこぼれ出たかのようだった。
自分で口にした言葉に、私の胸が熱くなっていく。
ユリウス「……〇〇」
ユリウスさんは、私をぐっと引き寄せて強く抱きしめた。
薔薇の花びらが、私の胸からふわりと舞い落ちる。
ユリウス「……よかった」
耳元で囁かれ、思わず吐息が漏れそうになる。
ユリウスさんは、そうして私の頬を両手で包み…-。
〇〇「ん……っ」
優しくて甘い口づけを落とした。
ユリウス「〇〇……」
首の後ろを引き寄せられ、頬にかかる髪が優しく耳にかけられる。
(なんだか……)
あまりに優しく私に触れる指先が、私の心を甘くさざめかせた。
(蕩けてしまいそう……)
ユリウスさんは、何度も何度も、繰り返し私の唇を求める。
〇〇「ユリウスさん……」
ユリウスさんは、私の腰元をもう一度強く抱き寄せる。
ユリウス「お前と出会えてよかった。 こんな安らぎ、オレにはもう二度とないと思ってた」
ユリウスさんはそう言うと、私を軽々と抱き上げた。
〇〇「ユ、ユリウスさん……?」
ユリウス「……ちょっと眠くなった」
ユリウスさんは悪戯な笑みを浮かべる。
ユリウス「お前となら……いい夢が見れそうだ」
彼の表情は今まで見たことがないくらいあどけなくて……
私は彼に身を委ねることしかできなかった…-。
陽が傾きかけた頃…-。
窓から差し込む蜂蜜色の陽の光をまぶたに感じながら、私は瞳を閉じている。
ユリウス「〇〇……」
繰り返し降り注ぐキスと、私の名前を呼ぶ優しい声は、私の全身を甘く痺れさせた。
(こんなことされたら……)
ユリウスさんの指先が、私の首筋をたどる。
〇〇「……っ」
甘い痺れに身を震わせると、彼が声もなく微笑むのがわかった。
ユリウス「好きだ……」
そうして、私達はベッドに沈んでいった……
…
……
ユリウスさんのベッドで、私は朝を迎えた。
(ずっと、こうしていたい……)
腕枕をしてくれている彼の寝顔を眺める。
その穏やかな顔を見ると、幸せな気持ちが溢れてきた。
(ユリウスさんも、幸せって思ってくれるかな……)
ユリウス「〇〇……」
まだ夢の中にいる彼は、私の名前を呼び、私をそっと抱き寄せる。
(そうだといいな……)
そんなことを思いながら、私はまだ眠り続ける彼の頬に口づけを落とした…-。
おわり。