それからしばらく、私はユリウスさんとブルメリアで穏やかな時間を過ごした。
そしてある日…-。
私はユリウスさんと城の従者さん達と一緒に、香料の元になる花を集めに、城から少し離れた花畑へと訪れていた。
ユリウス「よかったのか? 付き合わせちまって」
〇〇「はい、いろんなお花が見れて嬉しいです」
ユリウス「そうか」
ユリウスさんは、優しい笑顔を私に向ける。
(……なんだか最近、ユリウスさんの表情が穏やかになった気がする)
辺り一面の花の香りに包まれて、私も嬉しさに胸が弾む。
ユリウス「じゃあお前ら、よろしくな」
その言葉で、従者さん達は花を摘みに方々に散って行った。
ユリウス「さて、オレ達もやるか」
〇〇「私、あっちの方のお花を摘みますね」
ユリウス「いいけど、あんま遠くに行くなよ」
ユリウスさんと離れ、私は誰もいない場所で花を摘むことにした。
(なるべく、たくさんの種類のお花を集めよう)
(また、ユリウスさんといい香りがつくれるといいな……)
その時…-。
後ろを振り返ると、従者さんが一人、静かにたたずんでいた。
〇〇「どうかなさいましたか?」
従者「……」
従者さんは何も言わず、私に近づいてくる。
そして…-。
〇〇「えっ……」
いきなり剣を抜き、それを私に振り降ろしてくる。
〇〇「……!」
間一髪でよけたけれど、足に鈍い痛みが走る。
(嘘……足が……)
足をくじいてしまったらしい。
従者「……」
男は、再び私に剣を振り上げ…-。
〇〇「ユリウスさん……!」
私は、気づくと彼の名前を呼んでいた。
ユリウス「〇〇!」
私の叫びに応えるように、ユリウスさんが横から飛び出し、男と剣を交える。
ユリウス「てめぇ……どういうつもりだ!」
従者「お気づきになるのが遅かったですね。貴方らしくない」
ガキンと剣が鳴り、ユリウスさんが男を弾き飛ばした。
従者「くそ……っ!」
足を負傷した男は、その場にうずくまる。
ユリウスさんが、私をそっと抱き起してくれた。
〇〇「……っ!」
私は、ユリウスさんにぎゅっとしがみついた。
ユリウス「バカ、遠くに行くなっつったろ……もう大丈夫だ」
ユリウスさんは安心させるように、私を抱く力を強くした。
私を守るように背に隠して、ユリウスさんがうずくまっている男をにらみつける。
ユリウス「……お前ら、もしかして。 敵国のスパイか?」
(スパイ……!?)
―――――
ユリウス『最近、なんか妙な感じがするんだ。 誰かに見張られてるような……気のせいだったらいいんだけどな』
―――――
(ユリウスさんが感じていたのは、この人達のことだったんだ……)
スパイの男「戦争には敗れましたが……せめて貴方のお命だけでも、と機会をうかがっておりました。 ですが貴方は警戒心が強くて……この機会を作り出すのに苦労しました」
男はうめくようにそう言って、右手を高く上げた。
すると…-。
ユリウス「……!」
私達の背後から、突然数人の男達が襲いかかってきた。
〇〇「ユリウスさん……っ!」
花をことごとく踏み荒らして、目の前に男達の姿が迫っていた…-。