それから数日…-。
城の庭には草木が茂り、虫達が楽しそうに合唱をしている。
(今日もいい天気……気候も本当に穏やか)
(……戦争があったなんて、嘘みたい)
頬に暖かな陽射しを感じながら中庭を散歩していると…-。
(あれは……?)
ユリウスさんが、剣の素振りをしていた。
(真剣な表情)
声をかけようかと思ったけれど、その姿に見入ってしまう。
すると…-。
ユリウス「……どうした」
彼は私に気づいて、声をかけてくれた。
〇〇「ごめんなさい、お邪魔してしまって」
ユリウス「いや……ちょうど休憩したかったとこだ」
彼は剣をおさめ、近くにあったベンチに腰かけた。
〇〇「隣……座ってもいいですか」
ユリウス「ああ……」
そっけなく答えるユリウスさんの隣に並んで腰かける。
〇〇「剣の稽古、毎日やってるんですか?」
ユリウス「ああ……いくら平和だからって、何があるかわかんねぇからな。 それに……最近、なんか妙な感じがするんだ」
〇〇「妙な感じ?」
ユリウス「誰かに見張られてるような……気のせいだったらいいんだけどな。 嫌になっちまう。戦争はもう終わったのに、妙に勘ぐり過ぎて」
ユリウスさんの瞳は、まるで怯えているようだった。
〇〇「……」
胸が苦しくなって、思わず彼の手をそっと握ってしまう。
ユリウス「……っ!」
〇〇「ご、ごめんなさい!」
すぐに手を離そうとしたけれど…-。
私の手を、大きな手が掴んだ。
ユリウス「……いや、いい。なんか落ち着く」
(ユリウスさん……)
頬が熱を持ち、それきり私は何も言えなくなってしまった。
(大きな手……剣も軽々持ってたよね)
沈黙が続く中、太陽の暖かな光が私達を包み込む。
いつの間にか、私はまどろんでいた…-。
…
……
目を覚ますと、蕩けそうな夕陽が私の髪を透かしている。
(いけない! 私、眠り込んで……)
慌てて立ち上がろうとすると、肩に重みを感じた。
(……っ!)
ユリウスさんが、私の肩に頭を預けて眠っている。
(あれ……この香りは……)
不意に、覚えのある香りが鼻をくすぐる。
目を閉じると、ユリウスさんの首筋から微かに、二人でつくったあの香りがした。
(使ってくれてるんだ……)
温かい気持ちがこみ上げ、思わず彼の頬に手を触れる。
(穏やかな顔……)
ユリウス「……ん」
やがて目を覚ましたユリウスさんは、驚いたように私から離れる。
ユリウス「オレ……お前の横で眠ってたのか?」
信じられないといった顔つきで、ユリウスさんが私を見つめる。
〇〇「ユリウスさん……?」
彼のまっすぐな視線を受けて、私の鼓動がなぜだか早まっていく。
ユリウス「いや……悪い。 こんなに深く眠れたなんて……久しぶりだったから」
夕陽が世界を染め上げる。
(彼から目を逸らせない……)
ユリウスさんと見つめ合っている間……私には、時間が止まってしまったかのように感じていた。
夕陽の光が届かない場所で、私達をうかがっている人影に気づくことなく…-。